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岐阜市本郷町にある「すいもん」をご存知だろうか。
オレンジと白のテント屋根が目を引く喫茶店で、子育て世代に優しいお店だ。店主の平田 容子(ひらた ようこ)さんにお話をうかがった。
- 地元の名店を引き継いで
- レトロな外観はそのままに
- 「楮」での経験が礎
- 「すいもん」で楽しめる家庭の味
- 子育て世代に優しいお店へ
①地元の名店を引き継いで
岐阜市本郷町のけやき通り沿いにある「すいもん」。昭和レトロを感じさせる佇まいの外観がかわいらしい喫茶店だ。
「すいもん」はもともとこの地に根付き、地元の人々に愛されてきた「茶房すいもん」というお店だった。その場所を現在の店主、平田さんが買い取り、2020年の5月7日に新店舗として「すいもん」をオープン。まずは、それまでの経緯をうかがった。
「私が子どもの頃から「茶房すいもん」は、喫茶店として、ここにありました。お店をやりたいと考え、物件を探しているときに出会って、そのまま引き継いだ形です。」
平田さんはそれまでの約20年、創作和食の名店「楮(こうぞ)」で接客兼ドリンク・デザートを担当していた。
「楮では接客に加えデザート・ドリンク、それから全体的な装飾など、好きなようにやらせてもらっていました。その後、自分でお店をやりたいなと思って、独立を決めました。」
②レトロな外観はそのままに
平田さんが目指すお店は、幼少期や子ども時代に連れて行ってもらったような飲食店。オープンに向け、実家の近くで店舗探しに奔走した。自転車で地域を巡っては、空き物件を探す日々。そんなときに出会ったのが、「茶房すいもん」だった。かつて、平田さんもお客様として訪れたことがある店舗。「ここが空いている」と心惹かれ、購入を決意した。
オレンジと白のテント屋根が印象的な外観はそのままに、内装はリノベーション。外観のレトロ感とギャップがあると言われる喫茶店「すいもん」に仕上がっている。
「外観は全部、以前の店舗のままなんです。リノベーションをするときにテント屋根は「絶対に残す」と決めていました。ドアやライト、残せるところは残しているので、以前の良さはそのまま残しつつリノベーションをしました。」
平田さんが個人的に好みだったこともあり、レトロな雰囲気を感じさせる外観は「すいもん」の特徴。「オレンジと白のしましまテント屋根」は健在で、特に窓際のカウンター席から眺める「柵とテント」の景色は、どこか懐かしさを感じさせる。ドリンクを片手に、ゆったりとした時間を味わえる特等席だ。
メーニューにあった”バタフライピー”が気になり聞いてみた。
「実は私…ハーブティーが苦手なんです。そこで、苦手な人でも飲みやすいハーブティーを作って欲しいとお願いしたんです。ブレンダーさんにも協力いただいて作ったバタフライピーのハーブティーは飲みやすいので、ぜひ飲んでみてください。」
「すいもん」では赤、青、黄色のハーブティーがあり、美濃の緑茶を取り入れたものになっている。平田さんの希望するハーブティーが苦手なお客様でも飲みやすい上に、鮮やかで見た目も楽しいドリンクになった。
③「楮」での経験が礎
そんなハーブティーに合わせたいのは、平田さん渾身の一品。手づくりの「オリジナルのチーズケーキ」だ。学生時代からの改良を重ね、「すいもん」を代表する看板メニューになりつつある。
「本格的に改良を重ね始めたのは「楮」時代でした。お店のスタッフに「おやつにつくったので食べてください」と出していたら「おいしい」と言ってくれた。以降、ちょっとずつ改良をしていきました。」
平田さんは、それまでお菓子づくりなどをあまり行ったことがなかったという。それが「楮」に勤めたことをきっかけにデザートつくりを始めた。それが今の礎になっている。
「今思い返しても「楮」で、自由にやらせてもらったのがすごく大きいです。デザート作りも楽しかったですし、どんどんのめり込んでいった感じでした。お客様の声も自信に繋がって、独立してお店を持つなら飲食だなと思えましたから。」
「楮」では、店舗の立ち上げやお花などを活ける店内装飾などにも携わっていたと言う。それが「すいもん」オープンの際にも平田さんを支える力になった。
そうして今「すいもん」の店内もまた、季節の花々で彩られている。
④「すいもん」で楽しめる家庭の味
デザートと同時に「すいもん」の代表メニューが「母ちゃん飯」。ネーミングもさることながら、お弁当などで提供されている「母ちゃん飯」は、まさに家庭の味を楽しめる逸品だ。「それしかつくれないから」と平田さんは話すが、リピーターも多い人気商品になっている。
「やっぱり最後に戻るのは、「家庭の味」なのかなって思うんです。華やかなおいしさを求めるときは他店に行ってもらって、「すいもん」ではホッとするお母さんのような味を提供したいと考えてご提供しています。」
ある日の「母ちゃん飯」弁当は、メンチカツに人参のサラダ、だし巻き玉子、夏野菜の揚げ浸しなど、色とりどりで栄養満点。味わい豊かなラインナップだった。どこか懐かしく、温かみを感じるメニューに、思わず笑みが浮かびそうだ。
「実は自分が働きながら子育てをしていたのですが、働きながらでも、子どもには手づくりの食事を食べさせてあげたくて、毎日作っていました。でも、どうしても作れなかった日は手づくりのお惣菜などを購入していました。当時は本当に助けられたんです。なので、自分のお店でもそれができたらいいなとずっと考えてきたんです。」
⑤子育て世代に優しいお店へ
毎日忙しく頑張るお父さん・お母さんや共働き家庭も増えている現代。働くお母さんも多い時代になった。子育てをしながら働き続けるのは、決して簡単なことではない。平田さん自身が、その難しさ苦しさを知っているからこそ、提供していきたいものが「すいもん」にはある。
「今はまだ実現できていないのですが、いずれお惣菜も売り出したいなと思っています。おいしくてできる限り無添加な安心なものを手づくりして、お子さんに食べさせてあげるという安心感を提供できたらと思うんです。でも、それが高価だったら意味がないのでリーズナブルに出したいんです。」
育児をしながら働く人々の味方であるようにと願う「すいもん」では、小さいお子様連れOKの心落ち着く場でもある。
「店内でも、子どもは泣いても全然大丈夫ですよ、気にしないでください。」
子育て世代が少しでもホッとできる喫茶店であることもまた理想としている。そうした背景もあってなのか、「すいもん」は現在、ランチを中心とした日中の営業だ。ディナータイムなどについての考えはないのかと聞いてみた。
「今は考えていないですね。やはり私は子どもと過ごす時間も大切にしたいので。」
子育て世代を応援する「すいもん」だからこそ、平田さんは自身の家族も大切に、今を過ごしている。
かつて地域に根づいていた「茶房すいもん」が時を経て、再び地域の人々に愛されるアットホームな喫茶店へと存在を高めていく中で、老若男女問わずたくさんのお客様に来てほしいと平田さんは願う。
最後に、今後の展望についても聞いてみた。現状2号店などは全く考えておらず、「私が現役でできるところまでやっていければいいかな。」と平田さんは言う。その上で描いているのは、やはり多くの人々が気兼ねなく集う場所だ。
「今後の展望としてまずはお惣菜をやりたいですね。それからギャラリー喫茶。過去には帽子作家さんの展示会を行いました。占いなどもやったことがあります。そういう場所にもなったらいいなと思います。」
おいしい手づくりデザートに、愛情たっぷりの母ちゃん飯。レトロな扉を開ければ、子育て世代に優しく、温かな家庭の味が待っている喫茶店「すいもん」。
忙しい日常から離れてホッとする時間を楽しみに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。