お客様の美味しいにこだわる「香月宴」を訪ねてみた。

 

 

TOM
からあげで世界を救おうと思う!
SARA
どうして急にそんな話が出てきたの?
TOM
全国民が好きだって聞いてさ、ならおいしいからあげを広めたらきっとみんな笑顔さ!
SARA
・・・そんなに簡単じゃないと思うわ・・・

 

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関市にある「香月宴」をご存知だろうか。
山の中にありながらいつも満席で、絶品の鶏ちゃんと唐揚げ(岐阜の郷土料理)を味わえるお店だ。今回は、代表の月川 恵理香(つきかわ えりか)さんにお話をうかがった。

 

今回のツムギポイント!
  1. 元保育士が転身!料理好きが実現させた40歳からの創業
  2. 「一人楽しく毎日好きな料理を作れればよい」がコンセプト
  3. コロナ禍と自然災害を乗り越えろ!「儲けよりお客様の美味しい」を追求する
  4. 何百回もの試作から生まれた味が香月宴の強み
  5. フランチャイズ希望者を後押し!月川さんの新しい挑戦のカタチ

 

①元保育士が転身!料理好きが実現させた40歳からの創業

 

店主の月川さんは、もともと保育士として働いていた。高校は料理や衣服などを専門に学ぶ家政科であったが、料理の道には進まず短大に進学して保育士の免許を取得した。保育士から飲食店に転身したきっかけについて聞いてみた。

 

「実は、私のストレスの発散方法が、大量の食材を買い出しして料理を作り、それを友人たちに振る舞うことだったんです。その時に、料理が美味しい、お店を開いてほしいと大絶賛されました。それが、飲食店を開きたいと思うきっかけになりました。」

 

高校生の時には、周りに頼まれてクリスマスケーキを30個焼いたこともあり、それを苦に感じるどころか楽しんでいたという。月川さんが料理を本当に好きなことが伝わってくる。

 

同時に、このまま、保育士として働き続けるのかと疑問を抱いていたこともあり、30歳から創業に向けて準備を始めた。

 

「40歳で創業しようと決めていました。その際、一番お金をかけずに開店できる方法を調べたところ、定食屋だったんです。お菓子屋なら1000万円以上かかるが、定食屋なら約400万円という当時の試算です。その時は、私一人のパート代ぐらいを稼げればいいという思いでした。」

 

その後保育士を辞め、スーパーに転職して3年働きながら調理師免許を取得。さらに約1年半勤めた後、40歳で退職する。

 

「41歳になる2日前にこの店をオープンできました。だから、40歳で開店するという目標に対して、ギリギリですが有言実行できました。」

 

料理作りがストレス発散になるぐらい好きであった月川さん。長らく勤めた職場を離れ、自分の好きを仕事にしたその覚悟と行動力は、多くの人の勇気となり、見習うべき姿である。

 

 

 

②「一人楽しく毎日好きな料理を作れればよい」がコンセプト

 

店名の「香月宴」は、ゲン担ぎや画数など、月川さんの情熱が込められている。当初は月川さんの名前から「月香(つきか)」にしようと考えたが、「月」の文字が上から下に下がる点が気になり、下から上に上がるようにという想いを込めて「香月」にしたという。

 

「香月にはもう一つ意味があって、お笑いの「花月」を引用しています。喜劇のように楽しくずっと続いていくお店になるという願いを込めています。そのため、読み方も『こうげつ』ではなく『かげつ』と読ませています。『宴』には『楽しく』と『日々女性が働く店』という意味も込められています。」

 

文字の意味を大切にする姿勢からは、月川さんのお店に対する愛着が伝わってくる。

 

香月宴は、山の中にあり、決して立地が良いとは言えない場所にある。月川さんは、当初から都心部で開店するつもりはなかったと振り返る。

 

「1日15人ぐらいのお客様が来るお店で、一人楽しく毎日好きな料理を作れればよいというコンセプトでした。この場所にしたのは、トイレが綺麗で家から近いこと、当時娘の高校に迎えに行きやすかったことなど、諸々ありました。素人感覚です。」

 

開店の際も、目立たないようにほとんど告知せずに始めた。一気にお客様が押し寄せないように、花の贈り物なども断り、暖簾だけ出して開店したという。しかし、月川さんの料理の美味しさは瞬く間に口コミで広まり、開店2ヶ月後には満席になるほどの人気となった。

 

「あまりの忙しさで一人で回しきれなかったので、仕事を辞めた父と母に無理を言って手伝ってもらいました。同級生にも協力してもらったりと、何とか営業を続けてきました。」

 

最初から儲けを考えていたなら、都心部で開店していただろう。このエピソードから、月川さんのコンセプトが純粋であることが伝わる。

 

月川さんは、自分からお店について積極的に発信しないスタンスを取っている。その理由は、好きな料理を突き詰めてやり続けることが、自分にとってやるべきことだと考えているからである。香月宴のコンセプトは、気持ちが良いほど一貫しており、その姿勢が周りを魅了している。

 

 

③コロナ禍と自然災害を乗り越えろ!「お客様の美味しい」を追求する

 

2時間の営業にもかかわらず、良好な経営状態にある中で、月川さんに現状の課題をうかがった。

 

「今の課題はローンです。実は開業2年目に、川の氾濫により店が半分浸かり流木もつきささり被災しました。その修繕費用のローンがあります。さらに、コロナで休業補償対象外となり、コロナローンも融資を受けました。その分の返済がまだ残っています。」

 

一般的に飲食店は、初期投資を5年計画で回収するが、2年目で被災し、資金回収が遅れた上に修繕ローンが増加。さらにコロナローンも加わり、相当な額の返済を抱えている。

 

「逆に言えば、2時間の営業だけでよく返済できているという感じです。本当は夜営業もできれば楽になりますが、昼営業だけで手一杯です。夜営業の人手が見つからないのも課題です。」

 

コロナ前は夜営業もしていたが、あまりにお客様が多く、一人では対応できないため断念した。需要はあるものの、人手不足で営業できないという歯がゆい状況が続いている。一日も早い人手不足解消が期待される。

 

月川さんは、料理の腕前はもちろん、人柄の良さや元保育士としての経験からも、お客様の信頼を得ている。

 

「お子様はお利口にしているということがすごい事ですので好きなものを持ってきて食べていただいてかまいません。」

 

保育士ならではの視点と子育て中の親への配慮を感じる。そのため、子育ての相談に乗ったりもしている。

 

「子どもさんの相談を受けると、どうにかならないかを試行錯誤し、頭の中で突き詰めて考えます。それが好きなんです。」

 

料理も同じで、納得いくまで試作を繰り返し、妥協はしないという。こだわりが強いのだ。

 

「私にとってはこだわりではなく普通のことです。美味しいものを食べてもらいたい気持ちが強く、儲けよりもまずお客様に美味しいと評価をいただいて、それに対しての対価をいただくという先出しの考えです。」

 

月川さんは、経営者であり職人でもある。そのプロフェッショナルな姿勢は、一つひとつが学びとなる。

 

 

 

 

④何百回もの試作から生まれた味が香月宴の強み

 

香月宴の看板メニューは、「からあげ」と「けいちゃん」である。当初はさまざまなメニューを提供していたが、この2品が特に人気だったため、看板メニューとなった。

 

からあげは小麦粉と卵を使用しておらず、アレルギーを持つ方も安心して食べられるのが嬉しい。この地域のけいちゃんは味噌ベースで辛いタイプが多いが、香月宴のけいちゃんは発祥の地である下呂の味をベースにしている。

 

「祖父が下呂出身だったので、けいちゃん発祥の地である下呂の味をよく食べていました。その味をベースに、私なりのオリジナルのタレを作っています。」

 

オリジナルのタレはお客様から好評で、タレだけを購入する方も多い。しかし、物価高の影響で、外部委託していた「けいちゃんのたれ」の販売を6月で終了した。そのため、現在はお店で調合したタレを少し多めに作り、ジップロックに入れて販売している。

 

「使い勝手が悪くなったので、売れないかと思っていましたが、意外に好評でニーズが高いことがわかりました。現在、より良い容器について考えています。」

 

すべて月川さんのオリジナルで作られている点が、香月宴の強みである。月川さんは、どこで修行したのかとよく聞かれるという。

 

「修行していたら、からあげやけいちゃんはこの味にはならなかったと思います。私はただの素人で、何もないところから自分が好きな料理や頭に浮かんだ料理を、何百回も試行錯誤しながら完成させました。だから、他のお店と違うと言われても当たり前だと思っています。」

 

香月宴は、詳しいレシピについては、一切公表していない。からあげもけいちゃんも、醤油ベースであることのみ公表しているぐらいである。

 

自分の味を追求することで、オリジナルが生まれ、唯一無二と称される。味に対して妥協しない姿勢こそ、香月宴の強みだろう。

 

 

⑤フランチャイズ希望者を後押し!月川さんの新しい挑戦のカタチ

 

月川さんが描く今後の展望は、フランチャイズをやりたいという人の後押しをすることである。現在、香月宴ではフランチャイズ加盟店を募集している。

 

「儲かるかどうかは、その人次第かもしれません。料理は作り手によって味が多少変化するので、美味しさだけでなく、想いのある人に挑戦してほしいです。」

 

一般的なフランチャイズ加盟店応募と比較して、香月宴が掲げるフランチャイズ加盟の優位点についてうかがった。

 

「ロイヤリティを極力抑えています。大手の場合、売上の規模に関わらず約38%ですが、うちの場合は毎月6万6千円とからあげとけいちゃんのタレの仕込み費用だけです。」

 

フランチャイズ事業は、ロイヤリティから収益を得るのが基本だが、香月宴では収益を度外視した仕組みで、フランチャイズ募集をしている。数字からも月川さんの本気の想いが伝わる。

 

「今はよい機材があるのを知っているので、最初の初期投資として500万円はかかることを伝えています。私が始めた時は、素人だったので、よくわからずに機材を買っていましたが、実際に使ってみたらダメだったものもたくさんあり、その都度買い直していました。そういった余分な手間や出費を、最初からきれいに揃えた状態でできるのはすごく強みだと思います。」

 

これまでの経験から、機材はとても大事で、そこまでこだわらないとお客様の美味しいを引き出せないのだ。

 

「私が稼ぐのではなくて、その方が頑張った分だけちゃんと儲かる仕組みでやってもらいたいんです。自分のためではなく、私のために働いていたら本末転倒だと思います。」

 

香月宴は、月川さんの好きと美味しいの追求によって紡がれた、唯一無二の定食屋だ。月川さんのご厚意でからあげをお土産でいただいたが絶品であった。ぜひ一度、香月宴を訪れ、心のこもったからあげとけいちゃんを味わってみてはいかがだろうか。

 

 

 

香月宴

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