決意、進化、再起動…挑戦しつづけるダイニングバー「Re:Nitro」を訪ねてみた。

 

 

TOM
ニトロって、昔のハードボイルド系の漫画によく出てきた気がするな。
SARA
その瓶にはニトロが入っている。少しでも動いたら爆発するぞ、みたいなね。
TOM
実はハッタリで、中身はただの水だったりするんだよね。こういう瓶に入ってて……
SARA
・・・あ、それは本物っ!!・・・

 

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美濃加茂市にある「Re:Nitro」をご存じだろうか。
飛騨牛ハンバーグと明太パスタと全国5位の生ビールが自慢の、子連れでも気兼ねなく食事を楽しめるダイニングバーだ。料理の道を志したきっかけや、メニューへのこだわり、将来の展望などについて、渡辺 孝記(わたなべ たかき)さんにうかがってみた。

 

今回のツムギポイント!
  1. Re:Nitroを自分にとっての起爆剤にしたい
  2. 出発点はカウンターだけの小さなバー
  3. 新卒で勤めた会社を辞めて料理の道へ
  4. 看板メニューは飛騨牛ハンバーグと明太パスタ
  5. 料理人であるよりも、商売人でありたい

 

①Re:Nitroを自分にとっての起爆剤にしたい

 

まずは「Re:Nitro」という名前の由来についてうかがってみた。

 

「お店の名前を考えていたときに、たまたまニトログリセリンということばが耳に入ってきて、ニトロっていいなと感じたんです。今日、ニトロに行こうよってお客様に言ってもらいやすいなと思いました。後付けになるのですが、起業するにあたって、自分にとっての起爆剤になるお店にしたいという自分の想いともマッチングしたので即決しました。」

 

店名に込めた思いを話してくれた。お店の名前を決めるにあたり、覚えてもらいやすさ・インパクトの強さ・呼びやすさの3つを重視したという。

 

さらに「Re」というキーワードが付けられている。この「Re」には3つの意味がある。

・Resolution(決意)
・Revolution(進化)
・Reboot(再起動)

この3つをかけ合わせたものこそが、お店のテーマであると渡辺さんは語る。

 

渡辺さんのお店は、Re:Nitroが初めてではない。3年間、小さなバーを経営し、4年目にRe:Nitroとして拡大移転した。

 

渡辺さんは、30歳までに飲食のお店を起業すると心に決めていた。しかし、なかなか良い物件が見つからない。タイムリミットが迫る中、同業の先輩と飲みに行ったときに、バーの店長から「近々店をたたむ予定だから、その物件が空くよ」と教えてもらった。

 

そこはカウンターしかない小さな店舗。自分の目指す規模より少し小さかったが、駅前の繁華街で駐車場を用意する必要がない。さらに冷蔵庫など、設備ごともらえるという好条件。

 

「以前、『金持ち父さん貧乏父さん』を読んだのですが、その本にたった10席のバーから商売を始めた話がありました。そのエピソードを思い出して、これも縁だなと感じ、まずはバーをやろうと決めたのです。」

 

バーではなく、お昼も営業したかった渡辺さんだったが、悩んでいるときに本の内容を思い出し、決断に至ったのだという。

 

このカウンターしか無い店舗から始まってどんな展開をして現在に至るのか、これからのお話が楽しみだ。

 

 

②出発点はカウンターだけの小さなバー

 

渡辺さんの最初のResolution(決意)、それはバーの経営だった。お店の周囲にはスナックが多く、アフターでの需要があったため、深夜の時間帯に営業していた。当初の予定とは異なるルートを歩んだわけだが、バーの3年間は、渡辺さんにとってどのようなものだったのだろうか?

 

「お客様から教えてもらうことがたくさんありましたし、いろいろな業者との出会いもあり、非常に濃い3年間でした。最初から、Re:Nitroの規模でやらなくてよかったなと痛感しています。この3年間の経験を糧にRevolutionというところの進化ができました。自分の中で変革をもたらしてくれた3年間でしたね。」

 

バーの3年間で、渡辺さんはどのような学びを得たのだろうか?

 

「カウンターを通して一人でお客様の対応をしますので、ありがとうという声も直接聞けますし、逆にクレームも全部自分で受けることになります。自分が提供したメニューの反応もその場でみられるので、それがめちゃくちゃ勉強になりました。」

 

とはいえ、渡辺さんにとって、バーはあくまで期間限定。2年目からは物件を探し始めた。しかしコロナ禍になって身動きが取れなくなってしまう。さらに渡辺さんを取り巻く環境は、バーを始める前とは大きく異なっていた。

 

「結婚して、子どもが生まれ、妻が2人目を身ごもっている状況でした。コロナ禍で先が見えない中、どうやって売上を作っていけばよいのだろうと葛藤していたんです。でも、コロナを言い訳にしたらだめだと思い、予定通り自分のお店を出そうと決めました。妻も応援してくれて、自分もスイッチが入った。だから再起動のRebootなんです。」

 

 

 

③新卒で勤めた会社を辞めて料理の道へ

 

バーに続き、自身にとって2つめのお店である「Re:Nitro」。ただ渡辺さんは、最初から飲食業の道を選んだわけではなかった。学生時代は、特にやりたいことがなかったという。新卒で就職した会社も、飲食業とは全く異なる業種だった。

 

「今でこそ当時の上司に感謝していますが、入社した当初は、世の中ってなんて理不尽なんだろうと感じながら働いていました。同期と会って話してみると、彼らは不満を言いながらも、会社に馴染んでいるんですね。僕も頑張りたいけど、この会社で一生働きたいとは思えませんでした。」

 

そんな中、カフェブームが訪れる。2007年頃のことだ。

 

「当時はまだ20歳でした。街中にかわいいカフェがどんどん生まれて来たんです。カフェに関する本もたくさん出版されました。実家が自営業だったこともあり、僕もこういうカフェをやってみたいという夢を持ち始めたんです。」

 

新卒入社3年目、出世の話も上がっていたというが、渡辺さんはその話を蹴り、退職願を提出した。そしてカフェチェーンの面接を受けて採用され、ある店舗に配属される。そこで包丁の持ち方など料理の基礎を学んだ。1年後、店長が店を買い取って独立することになり、渡辺さんも店長についていくことを決める。

 

「『今の会社ほど給料は払えないし、残業代も出せないが、それでもよければ勉強させてあげる』と言われ、2つ返事でOKしました。もともとこのカフェを転職先に選んだ理由はご飯がおいしいからでした。その店長がつくるご飯は何を食べても美味しかったんです。店長から料理をマンツーマンで教えてもらえる、良い機会だと考えました。」

 

当時、渡辺さんは23歳。周囲はみんな遊んでいる。しかし渡辺さんは週6勤務で休みは水曜日だけ。朝8時に家を出て、掃除や仕込みをして開店し、夜の23時まで営業。片付けと翌日の仕込みをして24時に退勤。それから家に帰る生活が続いた。昼営業と夜営業の間にアイドルタイムはあるものの、大型の予約があれば休めなかったのだ。

 

最初のうちはやる気もあり楽しかったものの、だんだん「自分は何をやっているのだろう」と疑問を覚えるようになった。

 

「このまま開業しても、この生活は変わらないと感じました。店長は多分休みの日も仕事しているし、アイドルタイムも買い出しに行っています。朝も市場に行ってから出勤しています。20代の一番元気でフットワークが軽いうちに、やることじゃないなと思ったのです。」

 

そして渡辺さんはそのお店を退職。別の職場で経験を積み、バーの開店、そしてRe:Nitroへと進化したのだ。

 

 

④看板メニューは飛騨牛ハンバーグと明太パスタ

 

Re:Nitroには、個人店とは思えないほど豊富なメニューが並ぶ。中でもよく売れるのが、ハンバーグと明太パスタ。ハンバーグは、最初に勤務したお店の店長から教えてもらったレシピを、渡辺さんがアレンジしたものだ。

 

「今は粗挽きのゴツゴツしたハンバーグが流行っています。しかしRe:Nitroのハンバーグは、日本人の味覚にあった細かい牛と豚の合いびき肉で作っています。僕はRe:Nitroを、地元に愛されるお店にしたい。そのためにも、長く食べ続けてもらえるハンバーグがいいなと考えてレシピを作っています。」

 

一方、明太パスタは完全な渡辺さんの好みだという。

 

「めちゃくちゃおいしい明太パスタのレシピを思いついたんです。実際にお店に出したらとても評判が良いですね。ハンバーグと明太パスタが看板レシピというのは、少し変わっているかもしれません。ただお客様にお店に来てもらうには、何かしら取っ掛かりが必要です。Re:Nitroという名前だけでは何のお店かわかりづらいので、『ハンバーグと明太パスタの店』にすれば、わかりやすくなるなと思いました。他のメニューや居心地の良さなど、1度お店に来ていただければ、何かしらリピートにつながると考えています。」

 

さらに、Re:Nitroでは恵方巻も販売している。実は渡辺さんは、下積み時代にお寿司を握ったり巻いたりしていた経験がある。そこで「ハンバーグを巻いたら受けるのでは?」と、オープンの翌年から始めた。「30本くらい売れればいい」と考えていた渡辺さんだが、最初の1週間で80本もの予約が入り、100本が完売した。2年目にメニューを増やして150本にしたところ、こちらも完売。2024年は180本を完売した。成功のポイントは何だったのだろうか?

 

「なぜうちの恵方巻を買ってくれたのかと、Instagramのストーリーズでアンケートを取ったことがあります。理由は『子どもが食べられるから』でした。確かによくスーパーやコンビニで売られている恵方巻って海鮮が多いし、いろいろなものが入りすぎているんですよね。例えば、お肉とウニが一緒に巻かれてあるとか。」

 

肉とウニの恵方巻、確かに大人は嬉しいが、子ども向けとは言い難い。

 

「その点、僕の作る恵方巻きはシンプルなんですよ。ハンバーグなら、ハンバーグと卵焼きだけ、チキンカツならチキンカツだけ。だからわかりやすいし、子どもたちにも食べさせやすいんです。あとうちで注文すると、フライドポテトなどのサブメニューも一緒に頼めるので、使いやすいという意見が多かったですね。」

 

また、最近では「台湾ペペロンチーノ」というメニューがヒットしている。家族と中華料理屋に行ったときに「これをパスタにできないかな?」と考えて作ったものだという。

 

「良くも悪くもこだわりがないのが、自分の中で良いところだと考えています。普通はうちのような洋食屋は、恵方巻きも作らないし、パスタも王道メニューを出すと思うんです。台湾のミンチを使ってペペロンチーノにしようとは思いません。カテゴリに縛られず、自分が出したいと思ってメニューをどんどん打ち出していきたいですね。」

 

 

⑤料理人であるよりも、商売人でありたい

 

洋食がメインだけど、恵方巻もつくるし台湾の味も取り入れる。自由な発想こそが、Re:Nitroの武器であり、強みだ。

 

「料理人であるよりも、一人の商売人でありたいと考えています。飲食に限定せず、面白いと思ったことはどんどん挑戦していきたい、面白そうなビジネスがあったら飛び込んで行きたいです。」

 

 

はたから見ればアイディアがどんどんバズり、順風満帆に見える渡辺さん。しかしもちろん目に見えないところで悩みは多い。

 

「みんなそうだと思いますが、僕も正直、考えたアイディアの8割から9割は失敗しています。当たった1割を大切にしてきたから、ここまで来られました。一番の悩みは平日の夜が目指す売上に届かないことです。その分、イベントへの出店で売上を立てるようにしています。お弁当は作りますが、自分が現場にいなくても売れるのがいいですね。」

 

華やかな成功の影で、血のにじむような努力と試行錯誤を重ねているのだ。

 

そんな渡辺さんの新たなチャレンジの一つが、居酒屋のプロデュースだ。Re:Nitroのスタッフが居酒屋をやりたいと渡辺さんに相談し、メニューや内装など、顧問という形で一緒に作っている。

 

また、期日は決まっていないが、インバウンドが盛んな高山市でお店を出す構想もある。

 

「これまでずっと日本人を相手に商売をしてきたので、今度は外国人向けの商売をしたいと考えています。外国人を相手に自分がどこまで商売できるのかにチャレンジする方が楽しそうだなと思っています。」

 

「楽しさ」こそが、渡辺さんの原動力だという。

 

「経営者は、お金を稼ぎたいとか、自由がほしいと思ってがんばっている人がほとんどだと思います。しかし僕の場合、お金や自由はスイッチにはなりません。楽しいことも飛び込んでいきながらお金を稼ぎたいというのが、僕のモチベーションなんです」

 

渡辺さんは、常にお客様のニーズや時代の変化を捉え、新しいメニューやサービスに挑戦している。飽くなき探求心と行動力が、Re:Nitroの成功の秘訣といえる。今後「Re:Nitro」がどのようにRevolution(進化)していくのか、楽しみだ。
美濃加茂市を訪れる機会がもしあれば、ぜひ訪れてみてほしい。

 

 

 

Re:Nitro

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