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岐阜市にある「pho gnu」 をご存知だろうか。
古民家をリノベーションした空間で、地元の食材を活かしたフォーを楽しめるお店だ。今回はマネージャーの浦瀬 明香(うらせあすか)さんにお話をうかがった。
- 「長良ういろ」がフォーをプロデュースした理由
- 小麦アレルギーの人でも安心して食べられるフォー
- イベントで手応えを感じ、実店舗をオープン
- 伊奈波神社の参拝に合わせて立ち寄れる立地
- 岐阜生まれのフォーを全国に届けたい
①「長良ういろ」がフォーをプロデュースした理由
フォーは、米粉から作られた平たい麺が特徴のベトナム料理だ。ベトナム北部が発祥と言われ、ベトナム人のソウルフードとも言われている。日本ではまだまだ馴染みが薄く、まだ一度も食べたこともない人も多いのではないだろうか。
そのフォーが今、岐阜の新たなソウルフードとして注目されている。それが「長良ういろ」がプロデュースするお店「pho gnu」だ。
仕掛け人であるマネージャーの浦瀬さんに、まずはお店の由来についてうかがった。
「フォーは、料理のフォーです。ヌーの方は、母体が「長良ういろ」という、ういろ屋なので岐阜の「g」と長良ういろの「n」と「u」から「gnu」としました。ういろって、どうしてもお土産という印象が強いんですね。コロナで人の流れが止まったときに、お土産の売り上げも止まってしまいました。ういろを知ってもらうきっかけを作るためには、人がやっていないことにチャレンジする必要があると考えたんです。」
他の人がやっていないチャレンジをする、そこで活きたのが、浦瀬さんの海外体験だ。
浦瀬さんは元客室乗務員だ。海外を飛び回り、さまざまな食文化に触れた中で、身体によいものを取り入れたいという想いを持っていたという。
「私は海外でさまざまな食文化に触れました。海外には、米粉を使った料理がとても多いんですね。長良ういろも米粉でできているので、それとつながる何かを考え、最終的にたどり着いたのがフォーだったんです。米粉のおいしさや、実は原材料が一緒という繋がりをもたせたうえで、長良ういろも発信していけたらと思いました。また、米粉なら小麦アレルギーの人にも召し上がっていただけます、作るなら、添加物や化学調味料は一切使いたくない、安心安全なもので提供しようと考えました。」
②小麦アレルギーの人でも安心して食べられるフォー
岐阜県生まれ・岐阜県育ちだという浦瀬さんは、岐阜に対する想いも強い。
「岐阜に帰ってきて感じたのは、岐阜ってすごく落ち着くいいところだな、ということでした。岐阜は食材豊かな土地で、野菜も、おいしいものがたくさんあります。ですから岐阜の食材を詰め込んだフォーというコンセプトにしました。米粉は食事にもお菓子にもなる、可能性に満ちた食材です。ういろをもっと多くの人に知っていただけるものを展開したいと考えています。」
確かに「ういろ」といえば、どうしても岐阜よりも名古屋のイメージが強い人も多いのではないだろうか。
「名古屋も有名ですが、ういろは会社によって、主原料が違うんです。名古屋は小麦粉を主原料にしたものが多いのです。うちは岐阜のお米と伏流水を使って作っているので、食感が全く異なります。子ども向けのおやつとしても、年配の方からも、うちのういろは全然違うという声をいただいています。他のういろと差別化して、うちの売りをもっと全面に押し出していきたいと考えています。」
長良ういろの3代目は、浦瀬さんのご主人だ。ご主人は、浦瀬さんの事業についてどのように考えているのだろうか?
「夫も私と同じ気持ちでした。コロナ禍は自宅での時間が多く、夫婦でこれからのういろの未来について話し合いました。そのときに『今、動かないと、衰退していくかもしれない。このタイミングで何か新しいことをやらないといけない』と意見が一致したんです。実はういろって、子どもウケがいいんですよ。だから未来はあると考えています。ただ小麦アレルギーを気にしている親御さんもいて、うちのういろなら安心して食べられるという声をいただきました。ですから米粉には、小麦粉にはない強みや売りがあると確信しています。」
③イベントで手応えを感じ、実店舗をオープン
フォーの販売は、まずイベントでの販売から始まった。
「フォーの作り方をいろいろと試行錯誤して、商品になるまでにかなりの時間がかかりました。イベント出店したときにお客様から『すごくおいしい。次はどこに行ったら食べられるの?』という声をいただいたんです。」
その声を聞いて、ゆくゆくは実店舗を構えようと心に決めた浦瀬さん。その前にワンクッションを置いて、キッチンカーを作ることにした。
「フルオーダーで、自分たちの好みのキッチンカーを作りました。車があれば販路も広げられます。岐阜だけでなく、名古屋などさまざまなイベントからお声がけいただいて参加しました。並行して実店舗を探していたときに、ご縁があって今の場所に店舗を構える運びになったんです。」
テントでの販売を1年、キッチンカーでの販売を1年。トライアンドエラーを繰り返しながらフォーを改良し、足掛け2年かけて実店舗のオープンにこぎつけた。
キッチンカーで少しずつ遠くの町にも行くことで、これまでういろを知らなかったお客様に対して、ういろのことやフォーとのつながりを知ってもらえるようになったのだ。
④伊奈波神社の参拝に合わせて立ち寄れる立地
2023年3月21日、満を持して「pho gnu」が伊奈波神社のそばにグランドオープンした。築100年の古民家をリノベーションした、レトロモダンな店構えが特徴だ。
以前このサイトでご紹介した「天ころりん」と扉でつながっている。
お正月の三が日は多くの人で賑わった。七五三など、お参りの際に利用する人が多いという。
「伊奈波神社は、岐阜の人たちの心の拠り所です。自分たちが岐阜のおいしいものを発信していきたいと考えたときに、周辺の古民家の町並みが自分たちのアイディアとマッチして、ここが良いと思いました。」
お店を構えるにあたっては、京都の古民家を参考にしたという。
「京都にはまちづくりや古民家再生が上手なところが多く、そのようなところを何軒か見て回りました。そして、梁や土壁をそのまま残して、新旧が共存したお店だったら面白いだろうなとイメージを膨らませていきました。」
オープンするときは、SNSを使う若い世代が多く来店されるのかと考えていた浦瀬さんだが、蓋を開けてみると年配のお客様も多かったという。
「フォーは知らなかったけど、『食べてみたらすごくあっさりしてて、おいしいんだね』と言ってリピーターになってくれているお客様がとても多いんです。お店の雰囲気も、実家に帰ったみたいで落ち着くと言っていただけます。若いお客様と年配のお客様、両方のお客様に来ていただけているので、ありがたいです。」
確かに、米粉を使って柔らかく、無添加で健康にも配慮したフォーは、高齢者の食のニーズにもマッチしてるだろう。
「お天気がいいと皆さん散歩で来られたり、そのまま金華山に行かれたり、山や神社の帰りに食後に立ち寄ってもらったりしていただいています。伊奈波神社や他のお店と一緒に、まちの魅力づくりに貢献できればいいなと思います。」
⑤岐阜生まれのフォーを全国に届けたい
pho gnuの強みは、やはりここでしか食べられないフォーだ。2024年4月時点で、お店に並ぶフォーは3種類ある。
● 長良川フォー
● 海鮮フォー
● 飛騨牛フォー
プラス、ここに期間限定のフォーが追加される。たとえば夏場には「冷やしトマト麻婆麺」が提供される。こちらは冷たい麺に特製のトマトソースがかかっており、その上に角切りトマトなどの夏野菜が盛られている。特製味噌と豆板醤で味付けした鶏肉が乗った人気メニューだ。
そして看板メニューは、飛騨牛、美濃古地鶏、鮎の魚醤など、岐阜の素材たっぷりの長良川フォー。フォーはベトナムの料理だが、こちらのフォーは、隠し味に「和三盆」が使われているのが特徴だという。母体が和菓子屋さんである、pho gnuならではの発想だ。
「スープは日本人好みで、これまでに飲んだことのない、飲んだらクセになる優しい味なんです。」
フォーといえばパクチーやコリアンダーなどの香草や、スパイスを効かせた日本人に馴染みのない味をイメージする人も多いかもしれない。しかしpho gnuのフォーは、老若男女に愛される日本人に合わせた味付けになっているのだ。
「スープは3種類のメニューですべて異なります。看板メニューの長良川フォーは子どもでも食べられるようなシンプルな優しい味、海鮮はあさりなどをベースにした味、飛騨牛はエスニックな香りがする、一番ベトナムのフォーに近い味です。パクチーも沢山乗せることもできるので、ベトナムのフォーを食べたい方には飛騨牛フォーがおすすめです。」
もっとフォーを、そして長良ういろを知ってもらいたいという浦瀬さんは、Instagramにも力を入れている。
「Instagramを見て来ましたという人が、ありがたいことに増えています。週末は遠方とか家族連れの方が多く、平日はオフィスからのお客様がみえます。」
そんな浦瀬さんに、今後の展望についてうかがった。
「今はこの近隣の方だけに知られているだけのお店ですが、より多くの方にご来店いただきたいと考えています。それに小麦にアレルギーがある方や、身体に良いものを食べたいと考えている人の助けになると考えています。この近辺はもちろん、食に対して悩みがある全国の方の助けになりたいとも考えています。ゆくゆくはECサイトを立ち上げて、ネット販売もしていきたいですね。」
最後に、浦瀬さんが大切にしていることについてうかがってみた。
「直感を大事にしています。そして何に対しても物事のよいところを見るように心がけています。嫌なことが起きたとしても、一旦は凹むのですが、翌日はわりとケロッとしていますね。何とかなる、何とかしようと思っています。後から振り返ったときも、良かったところしか思い出さないです。悪いところも全部良いところにつながってると思って、ポジティブにとらえています。自分の人生でお店を持つなんて考えてもみませんでしたが、振り返ると自分の経験が今に全部つながっていると感じます。」
まさにそのポジティブさが発揮されたタイミングが、コロナ禍でのpho gnu開店だろう。どうなるかわからない状況の中で新しいことをやってみようと決断したから、今の成功があるのだ。
少し落ち込んだとき、もしかしたらpho gnuのフォーを食べたら、浦瀬さんのポジティブさを少し分けてもらえるかもしれない。
伊奈波神社にお参りし、どこか懐かしい古民家の町並みを散策して、小腹が空いたらフォーを食べる……そんなゆったりした一日を過ごしてみてはいかがだろうか?