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瑞穂市にある「バックハウスブラウ」をご存知だろうか。
いろいろな種類のドイツパンを扱うパン屋で、本場の味と文化を再現したパンやイベントが楽しめる。今回は、オーナーの青木 智(あおき とも)さんにお話をうかがった。
- ドイツ愛から生まれたパン屋
- 独学で習得!海外発想でレシピ開発
- ドイツ文化を取り入れたイベント開催
- おすすめのパンは「ブレッツェル」
- 岐阜に浸透してきたドイツ文化
①ドイツ愛から生まれたパン屋
幅広いバリエーションのドイツパンを提供し人気を博している「バックハウスブラウ」は、創業10年目を迎えている。
瑞穂市で創業した理由は、オーナーの青木さんの地元であることと、開店当時はパン屋が少なかったからだという。ドイツパンのパン屋を始めようと思ったきっかけは、大好きなドイツへの訪問だったと青木さんは話す。
「ドイツでパンを食べたらすごく美味しくて、特に『ブレッツェル』というパンが好きになりました。日本で食べられないので、自分で作ろうと思ったのがきっかけです。」
本場のドイツパンは、日本で販売されているものとは大きさも違い、バリエーションも豊富だという。
「ドイツは、都市から電車に乗ると、すぐ田園風景が広がるなど景色も綺麗で、のんびりしていて、なんだか日本とどこか似ていて親近感が湧きます。ドイツの方の考え方も日本人に近く、質素堅実でエコを心がけている国なので大好きです。」
青木さんはもともと大学でドイツ語を専攻し、1年間の留学経験があった。しかし、当時は全くパンを食べなかったという。社会人になり再びドイツを訪問した際に、ドイツパンと出会ったことが転機となった。
「そのまま約1ヶ月間、ドイツのパン屋で働いてみて、パン作りの面白さに気づき、パン屋になろうと決めました。」
青木さんが働いていたのは、最初にドイツパンを食べた店で、お店は小さいが地元で人気のパン屋だという。青木さんは、興味を持ったことにすぐに行動に移したのだった。
店名の「バックハウスブラウ」はドイツ語に由来している。
「バックハウスはドイツ語で『パン焼き小屋』を意味します。うちの店はこじんまりしているので、パン屋ではなくあえて『パン焼き小屋』をイメージしました。『ブラウ』は青を意味していて、私の名前から引用しました。」
ドイツでの経験と、自分の思いが重なった「バックハウスブラウ」には、青木さんの情熱が詰まっている。
②独学で習得!海外発想でレシピ開発
青木さんは、ドイツでパンと出会う前は、パン作りは未経験であった。そのため、帰国後すぐにパン職人を目指して本格的に動き出す。
最初はパン屋に勤めパン作りの基礎を学ぶ。その後、レストラン併設のパン屋を任され、原価計算など経営面を学びながら、自分が作りたいパンの創作活動を経験した。そこからドイツパン作りの試行錯誤が始まり、最終的にバックハウスブラウを開店することとなる。
「ドイツパン作りは岐阜の近辺で習うところが無いので独学です。ドイツで働いていた時のメモや本、インターネットの情報、さらにドイツ人の友達やその家族に教えてもらいながら習得しました。」
約3年間で基礎を築き、独立後はさらにレシピを増やしてきた。
「気になったパンのレシピはまず作ってみます。そこからアレンジを加えるなど試行錯誤することもありますし、スーパーで見つけた食材をパンに転換することもあります。」
新しいパンを創作する過程はさまざまだが、試行錯誤と柔軟な発想によって新メニューが生まれている。完成したパンはスタッフに試食してもらい、細かい部分まで意見をもらっており、美味しいパンに向けて改良を重ねている。
また、青木さんは約20年間ドイツ語教室に通っており、旅行に行くには十分な語学力を維持している。そのため、定期的にドイツを訪問して刺激を受けているという。
「ドイツだけでなく、色んな国に旅に行くのですが、目的地への経由で1、2日はドイツに滞在しています。その度にパンや材料、本を買うなど、色々な刺激を受けて帰ります。」
創作において新たな刺激を受けることは大切であり、青木さんはどの国に行っても必ずパン屋に訪れるという徹底ぶりだ。
「日本にも海外で流行ったパンが入ってくるように、海外と日本では発想が違うんです。特に材料やスパイスの使い方が面白く、例えば現地で食べた肉料理をサンドウィッチに転換することもあります。」
独学でドイツパン職人になった青木さんは、日本に留まらず、グローバルな視点で発想の種を探している。
③ドイツ文化を取り入れたイベント開催
一般的にドイツパンというと、ライ麦パンをイメージする人が多いだろう。黒くて硬く、酸っぱいイメージのため、ドイツパンに苦手意識を持つ人もいるかもしれない。しかし、ドイツパンはライ麦パンだけではない。実は、世界で一番種類が多いパンだという。
「甘いもの、硬いもの、酸っぱいもの、惣菜パンなどさまざまな種類があります。私は、お店を通じていろいろなドイツパンの魅力をお客様に広めたいと考えています。」
ドイツパンを広める一環として、ドイツの文化を味わってほしいという思いから、昨年から積極的にイベントを企画している。
「ドイツで暮らした経験を活かして、ドイツパンの食べ方やドイツの文化を取り入れた販売に取り組んでいます。例えば、白い硬めのパンにソーセージやレバーケーゼというドイツのミートローフなどをはさんで、テイクアウトスタイルのイベントを行いました。」
本場の経験を生かしたユニークな取り組みは、他店と差別化につながり、バックハウスブラウの強みとなっている。
さらに、青木さんはパンに使用する食材にもこだわりを持っている。添加物が少ないものを扱い、惣菜パンには可能な限り自家製のものを使う。また、自分の畑で栽培した旬な食材を使い、季節感を大切にしている。
「キュウリやトマトなど、旬の野菜に合わせて季節のパンを作っています。差別化する目的もありますが、自分が食べたいものを作りたいという想いも強いです。」
青木さんの、自分が食べたいものを作るというシンプルな姿勢が、お客様からの信頼につながり、創業10年目を迎える理由が伝わってくる。
来店するお客様は、過去にドイツに行った人やこれからドイツに行く人、ドイツが好きな方が多い。医師にライ麦を勧められた人などさまざまだ。
お客様の多くは、30代以降のファミリー層や、健康に気を遣う50、60代が中心だ。今後どのようなお客様に来てほしいかを青木さんにうかがった。
「特にお客様を選ぶことなく、どなたでもお越しいただけたらと思います。そのうえで、うちの店がきっかけでドイツパンを好きになってもらえたら嬉しいです。」
バックハウスブラウのお客様は、良い人ばかりでありがたいと話す青木さん。お客様との間には、尊敬と信頼の関係が築かれていることがうかがえる。
④おすすめのパンは「ブレッツェル」
青木さんが一番おすすめするパンについてうかがった。
「ブレッツェルです。本場の味を日本でも食べたいと思い、パン屋を始めました。今ではドイツ人の友達も、ドイツの味だと評価してくれます。本場ドイツと日本の違いは、使っている小麦粉の違いと、伝統的な作り方だと考えています。」
青木さんは試行錯誤する中で、ドイツの伝統的な作り方が最も良いとの結論に至っている。本場のブレッツェルは甘くなく、ベーグルのように塩が乗り、そこに特殊な液をつけることで香ばしさが生まれる。その風味が病みつきになるという。
また、ブレッツェルを使ったドイツ文化を体験するイベントも開催している。
「ドイツでの販売スタイルを再現して、そのままの形で食べるイベントや、『ブレッツェルの日』を設けて、店中のパンをいろいろな種類のブレッツェルだけで配置するなど、どのイベントも好評です。」
岐阜にドイツパンの文化が浸透してきている証拠だ。一方で、いろいろな種類のパンを多品種少量生産で展開しているため、時間効率が悪いことが課題となっている。
「パン作りには時間がかかるんです。例えば、フランスパンであれば、生地をこねてから焼き上げるまで5時間かかります。そのうえ、単価が安く、完成までにかかるので、光熱費も負担が大きいです。」
本来であれば、1種類のパンを大量に作る方が効率的だ。しかし、いろいろな種類のドイツパンを広めたいという、青木さんの想いがある。将来的には種類を絞ることも考えているが、今はドイツパン文化の浸透を優先している。
そのような課題を持ちながらも、仕事のストレスはほぼ無いと青木さんは話す。それは、自分が楽しいと思えることが仕事になっているからだという。
「パン作りは楽しいです。労働時間は長く、販売や製造の責任も全て自分にありますが、それ以上に得られるものが大きいんです。お客様からいただく美味しいの声や、リピートしてくれることが大きなやりがいで、私にとってそれが全てです。」
自身が作ったパンが評価され、喜ばれることがモチベーションになっている。青木さんの前向きな姿勢と情熱の源が垣間見えるエピソードである。
⑤岐阜に浸透してきたドイツ文化
創業10年目を迎えて、自分が作りたいドイツパンを積極的に販売できるようになったと青木さんは振り返る。創業当初は、ドイツパンの認知度が低くお客様に選んでもらえかった。そのため、ドイツパンは少量にして、日本で好まれる柔らかいパンをメインで作っていたという。
「週末にはドイツパンを増やして置いたりと、地道に認知度を上げてきました。その甲斐あって、徐々に固定客も増え、今ではいろいろなドイツパンが売れるようになりました。」
今後は、さらに自分が作りたいパンを作れる環境にしたいと青木さんは抱負を語る。また、ドイツパンだけに特化した商品を通販でも展開しているため、こちらも認知度を上げて、多くの人に届けたいと考えているそうだ。
バックハウスブラウのコンセプトは、ドイツの文化を取り入れながらドイツパンを日本で広めることだ。パン以外にドイツゆかりの品を組み合わせた提案も考えているのだろうか?
「ドイツでは『ブロートメッサー』という小さいパン切りナイフが日常的に使われています。それをパンと合わせて提案していきたいんです。」
硬いドイツパンに最適なナイフである。日本に浸透していない異文化の魅力を広める楽しみな構想だ。
最後に青木さん個人の夢についてうかがった。
「石臼で挽いた小麦粉で作るパンがあります。石臼で粒のまま小麦を挽き、挽きたての粉をそのままパンにするんですけど、とても美味しいんです。実際にそれを行っているパン屋もあります。余裕ができたらぜひ挑戦したいですね。」
パン作りが大好きな青木さんならではの究極の夢である。是非その夢を実現して食べてみたいものだ。
ドイツパンの奥深さを体験できる「バックハウスブラウ」では、本場の味と文化を再現したパンやイベントが楽しめる。異文化に触れることで、新しい発見ができるかもしれない。ぜひ、青木さんの情熱が詰まったドイツパンを味わいに、「バックハウスブラウ」へ訪れてみることをおすすめする。また、通販でも購入できるので、全国どこからでもドイツの風味を楽しめるだろう。