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美濃加茂市にある「おやつのアトリエmoco(モコ)」をご存じだろうか。
卵や乳のアレルギーがある方や、食生活や健康に気をつかう方など、誰でも美味しく食べられる、からだに優しいスイーツを提供するお店だ。今回は、店主の平野 資子(ひらの もとこ)さんにお話をうかがった。
- 誰もが安心して食べられるスイーツを
- 使う食材は、自信を持ってお勧めできるものだけ
- 代替品でなく、選択肢のひとつに
- 家族みんなでひとつのケーキを食べてほしい
①誰もが安心して食べられるスイーツを
「からだに優しいほっこりおやつ」をモットーに、卵、乳製品、白砂糖、一部小麦粉も不使用のお菓子を提供する「おやつのアトリエmoco(モコ)」。
製菓の専門学校を卒業後、ケーキ屋で勤務していた平野さん。退職後も趣味の範囲でお菓子づくりを続けていたそうだ。
そんな平野さんが、からだに優しいスイーツを作るようになったきっかけは何だったのだろうか?
「当時は、卵や乳製品を使わないケーキなんて信じられないと思っていました。ヴィーガンスイーツのレシピを検索したり、料理教室に通ったりして作ってはみたものの、やっぱり食感や味に慣れなくて、正直美味しいとは思えませんでした。でも世の中には病気やアレルギーで困っていたり、本当は食べたいけど我慢している人たちがいて、美味しいヴィーガンスイーツやグルテンフリースイーツを作れるようになったら喜んでもらえるかもしれないと思ったんです。」
腸の慢性炎症で苦しむ知り合いのために、卵や乳製品を使わずにお菓子を作れないかと思ったのがきっかけだったという。
「まず一つ目は、地域とつながるためです。私は三重県出身なので周りに全然知り合いがいなくて、当時は仕事もしていなかったので地域とのつながりが全くなかったんです。せっかく手に職があるなら、それを活かせないかと考えていたので、これなら!と思いました。」
「二つ目は、私が今一生懸命になって美味しさを追求しているお菓子をお店で販売できるようになったら、誰かの助けになるんじゃないかと思ったからです。そこからレシピを研究し始めて、いろいろな講座を受けて資格を取りながら、試行錯誤の日々が始まりました。」
お菓子づくりを趣味ではなく仕事として、お店を開こうと決めた理由を語ってくれた。
趣味の延長上だからこそ実現したのではないか。好きなことを追求するという点で、仕事の在り方として理想的だと感じた。
②使う食材は、自信を持ってお勧めできるものだけ
卵、乳製品、白砂糖、小麦粉を使わないだけでなく、食材にもかなりこだわりがあるという。
「近くで栽培していないものは旅行がてら仕入れに行ったりもしていたんですが、今は無農薬のフルーツを取り扱っている宅配も利用しています。毎年旬のフルーツでお菓子を作っていると、そろそろブルーベリーね、そろそろイチジクねって、みなさん楽しみに待ってくれているので、すごく励みになっています。」
減農薬のイチゴ、無農薬・無化学肥料の栗など、旬のフルーツをメインに、実際に食べて美味しいと思ったものを使用しているそうだ。
また、できるだけ有機栽培や無農薬、国産、地元産の食材を使用し、アレルギーや授乳中の方にも安心して召し上がっていただけるよう、すべてのお菓子の原材料を明示していることも話してくれた。
ユーザーにとっては安心要素になるため、非常にありがたい心がけである。
「今ようやく自分の中である程度納得のいくお菓子を作れるようになってきて、ありがたいことにたくさんの方が予約してくれるので、店頭のショーケースに並ばない日も多いんです。」
卵、乳、白砂糖を使わないお菓子は、市販の材料が使えないことが多く、一から手作りする必要がある。平野さんひとりでお店を切り盛りしているため、作れる数にも限りがあるという。
「誰でも安心して食べられる美味しいスイーツを提供することが目的なので、安心・安全のためにクオリティは絶対に下げたくないんです。このお店を長く続けていきたいので、無理はしないと決めています。」
たくさんのお客様に食べてほしい気持ちもあるが、ひとつひとつに目の行き届いた、美味しいスイーツのみを届けたいと話す平野さん。
アレルギーで悩んでいる方や健康食にこだわっている方は、おやつのアトリエmocoのスイーツを一度食べてみてはいかがだろうか?
③代替品でなく、選択肢のひとつに
ここ数年で耳にするようになった「ギルトフリー」という言葉。 直訳すると“罪悪感のない”という意味で、低カロリーや低糖質など、罪悪感を感じることなく楽しんで食べられるものを指すそう。
「おやつのアトリエmoco」で提供するお菓子は、病気やアレルギーを持つ方だけでなく、美容や健康のために食生活を気にする方にもおすすめだ。
平野さんは、からだに優しいお菓子を提供するため「豆腐マイスター」の資格を取得している。
「ヴィーガンスイーツは、生クリームの代わりに基本は豆腐で作られた豆腐クリームを使います。お菓子づくりの大元である卵と乳の代わりになる材料なので、豆腐をしっかり知るために勉強しました。」
現在は、可児市にある豆腐料理のお店「東風谷(とうふや)」さんから豆腐と豆乳を仕入れているという。
「今のレシピができるまで、いろんなお豆腐で豆腐クリームを作ってみたんですが、バランスが本当に難しいんです。美味しいお豆腐や豆乳はすごく豆々しいというか、大豆のちょっと青臭い感じが残ってしまうんですよね。東風谷さんのお豆腐を使ったらそれらがほぼ解決して、本当に自慢の豆腐クリームです。」
「やっぱり卵や乳を使ったものと同じ風味を出すのは難しいので、素材そのものの食感や風味を特徴にしたものでもいいんじゃないかなって最近は思うんです。口どけがいいふわふわのスポンジよりもしっかり歯ごたえのあるスポンジの方が好きとか、甘い味よりもあっさりした味の方が好きとか、好みは人それぞれなので、他のお菓子の代わりではなく、「数ある選択肢のひとつ」を目指しています。」
卵や乳を使ったお菓子に近づけるのではなく、素材そのものの美味しさや風味を活かした、選択肢のひとつになるようなお菓子を提供したいと話してくれた。
本当にその通り、寄せるということを行うから難しいのだ。平野さんの柔軟な発想で、新たな定番スイーツが生まれるかもしれない。
④家族みんなでひとつのケーキを食べてほしい
現状に満足することなく、日々「もっと美味しく作れないか」と試行錯誤を続けているという平野さん。
今後の目標や夢をうかがってみた。
「開業当初は、お店を増やしたり大きくすることも少し考えていたんですけど、私の性格上難しいかなって。私が結構心配性だったり細かい部分もあるので、誰かに任せるってたぶん無理だと思うんです。ストレスを感じない範囲で細く長く、60歳、70歳になっても、1か月に1回のオープンでもいいから続けられたらいいなと思っています。」
「アレルギーがあるから我慢したり諦めるのはすごく悔しい。他のみんなが大きなケーキを切り分けて食べている中で、1人だけ違うケーキを食べるのではなく、うちのホールケーキを家族みんなで美味しいねって言いながら食べてもらえたら嬉しいですね。」
現在は、いろいろな素材のカップリングの試作を重ねている段階だという平野さん。
これからも、病気やアレルギーで悩む人、食生活や健康に気を遣う人たちの「スイーツの選択肢」を増やし続けてくれるに違いない。