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美濃市にある「和紙専門店 Washi-nary(ワシナリー)」をご存じだろうか。
丸重製紙企業組合が運営する、和紙の専門店だ。今回は、理事長の辻 晃一(つじ こういち)さんと、長屋 真里(ながや まり)さんにお話をうかがった。
- ワインのように和紙の世界を楽しんでほしい
- 情報という付加価値をつける
- 和紙につながるきっかけはさまざま
- 伝統のオープンプラットフォーム
①ワインのように和紙の世界を楽しんでほしい
江戸時代に築かれた歴史と伝統のある町並み、美しい山々や清流に恵まれた美濃市は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
うだつの上がる町並みでは、1300年受け継がれる美濃和紙をはじめ、多種多様な商いが続けられている。「和紙専門店 Washi-nary(ワシナリー)」も、美濃和紙の伝統を受け継ぎ、魅力を発信するお店のひとつだ。
はじめに、日本の伝統文化でありながら、和風とはかけ離れた「Washi-nary」という店名の由来についてうかがってみた。
「『ワインの世界を楽しむように、和紙の世界を楽しんでほしい』という思いを込めて、この名前をつけました。ワインも和紙も非常に世界観が似ていて、白い紙が並んでいても何も分からないけど、触れてみたり、透かしてみたり、書き比べてみると、ひとつひとつが全然違うんです。ワイナリーツアーのように、さまざまな技法、原料、作り手から和紙の世界を楽しんでもらえたら嬉しいです。」
「Washi-nary」では、和紙の専門知識を備えたスタッフが「和紙ソムリエ」となり、お客様一人ひとりにあった和紙を提案してくれるそう。
「美味しいワインの定義がないように、お客様にとって良い紙の定義も曖昧なので、お客様のご要望をうかがいつつ、和紙ならではの性質や、我々が持っている知識をもとに、お手伝いさせていただいています。」
ワインの試飲のように、和紙の試し書きができるそうなので、実際に目で見て、触れて、書き比べながら、自分にあったお気に入りの一品を選ぶことができる。和紙に詳しくない人でも楽しめそうだ。
②情報という付加価値をつける
「Washi-nary」では、自社製品のほか、手すき職人の和紙も販売している。小売りだけでなく、卸売りや加工・印刷など幅広い相談にも対応しており、オンラインショップからの購入も可能だ。
お父様の後を継ぎ、家業である和紙製品の企画・製造・販売に携わる辻さん。店舗事業を始めた理由についてうかがった。
「今はネットで世界中に情報発信できる時代なので、世界中から美濃に来てもらうきっかけを作れたらと思いました。和紙産業が衰退していく中で、製造小売業として生産、仕入れ、メーカーならではの情報を載せて発信することで、和紙の町を活性化したいと思い、店舗事業を始めました。」
美濃和紙の中でも「本美濃紙」と呼ばれる和紙は、石州半紙(島根県浜田市)、細川紙(埼玉県小川町・東秩父村)と共に、2014年にユネスコ世界無形文化遺産「和紙:日本の手漉和紙技術」に登録されている。
「うちで取り扱っている和紙はすべて、技法や原料はもちろん、作り手の顔からこだわりまで載せています。生産者の見える売り方というのはワインも野菜も果物も同じで、できるだけ多くの情報をオープンにすることで「付加価値」をつけています。」
「和紙の町」で知られる美濃市には、その名の通り、和紙を取り扱うお店が多く存在する。
作り手の顔や情報をオープンにしているのも「Washi-nary」の特徴のひとつだ。
和紙の素材の事や和紙づくりの技術に関する情報まで伝える事ができるのは、メーカー直営の店舗ならではなの強みだと話してくれた。
③和紙につながるきっかけはさまざま
美濃市民にとって「和紙」はとても身近な存在で、馴染みが深い。小中学校では、なんと自分たちで卒業証書の紙をすくのだとか。幼い頃から身近過ぎるがゆえに、和紙への興味がなくなる人も多いのだという。
「和紙って、自分自身が消費者でないとあまりピンとこないんですよね。それは従業員も同じで、和紙以外のきっかけからうちに興味を持ってくれた人もいます。例えば在宅勤務とか子連れ出勤とか、家事育児との両立ができる働き方に共感してくれる人も多いです。いろんな入り口から興味を持ち、最終的に「和紙」にたどり着くというのも全然悪くないと思っています。」
今回インタビューに応えていただいた長屋さんも、働き方に共感して入社したひとりだ。
「私も美濃出身なので、和紙はすごく身近な存在でした。子どもが1歳になって復職を考えていた頃、子連れ出勤をしているスタッフの記事を読んで、こういう働き方もあるんだと思ったんです。小さい頃から身近に感じていた和紙も、改めて勉強したら『こんなに種類があるんだ』『白色だけじゃないんだ』と、たくさん発見があったし、すごく可愛いものとか、綺麗なものとか、和紙の魅力を再認識できました。」
広報として、各種取材対応やSNSの運用を担当している長屋さん。Instagramには、昔ながらの用途だけでなく、和紙本来の美しさ、素材としての可能性、現代ならではの新たな視点で日々魅力を発信し続けている。
今回、美濃の手漉き和紙職人による貴重な「本美濃紙」を使い、折り紙作家によって作られた『花ノ和』という商品を購入させていただいた。
本美濃紙の素材感をダイレクトに感じられるよう、あえて着色されていないのだという。和紙職人と折り紙作家、双方の高い技術力を掛け合わせて作られた『花ノ和』。その美しさと繊細さはまさに圧巻だ。
辻さんが話してくれたように、従業員だけでなく、クリエイターや消費者にとっても「和紙」に興味を持つきっかけや入り口はさまざまなのだ。
④伝統のオープンプラットフォーム
店内には、美濃和紙の伝統と文化を伝えるアイテムがズラリと並ぶ。近年は海外からのお客様も多く訪れるのだとか。
日本の伝統文化で世界を見据える辻さん。最後に、今後の展望についてうかがった。
「ネットショッピングならAmazonか楽天のように、伝統や紙に関するものならWashi-naryとなるのが目標です。いずれは、Washi-nary パリ支店、ニューヨーク支店、ミラノ支店、シンガポール支店など、世界に進出できたらと思っています。」
新たなコンセプトに「伝統のオープンプラットフォーム」を掲げ、作り手、素材、技術、用途など、できるだけ多くの情報をオープンにすることで、相互作用・相乗作用によって和紙産業と美濃市の再生を図っていきたいという。
「長い歴史の中で時間をかけて築き上げられた伝統や文化を、衰退していく使われないものとして遺跡にしてしまうのではなく、ひとつのコンテンツとして活かしつつ、新しい価値を乗せて世の中に発信していきたいです。」
常に世界を見据える辻さんの発想と行動力により、「Washi-nary」が、いつか世界に羽ばたく日を楽しみにしている。
趣ある町並みに癒され、おいしいグルメや美濃和紙のかわいい雑貨探しが楽しめる「うだつの上がる町並み」へ出かけてみてはいかがだろうか。