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美濃市にある「BAR EST(バル エスト)」をご存じだろうか。
2014年にオープンした、イタリア料理やスペイン料理、豊富な種類のお酒が楽しめるお店だ。今回は、オーナーの島田 達也(しまだ たつや)さんにお話をうかがった。
- 若い世代が可能性を感じられる町に
- 『うだつ上がるコーラ』の誕生
- 自身の知識や経験で若者をサポートしたい
- 新しいことにチャレンジし続けたい
①若い世代が可能性を感じられる町に
2014年のオープン以来、地域の人に愛され続け、今年10周年を迎える「BAR EST(バル エスト)」。美濃の伝統的な町並みに溶け込みつつ、店内にはこだわりの詰まったオシャレな空間が広がる。
まずは、店名の由来や意味をうかがってみた。
「イタリアンやワインを勉強し始めた時にすごく気に入ったワインがあって、『エスト!エスト!!エスト!!!』という辛口の白ワインなんですが、そのワインの名前から取りました。イタリア語で「est」は「あった!」という意味で、 何か探しているものを見つけた時に喜びを込めて使う言葉だそうです。他にも、英語だと「establish=確立する、設立する」という意味もあって、いろんな意味を込めて「BAR EST(バル エスト)」という名前にしました。」
18歳から飲食業界に携わり、実際にイタリアに行って勉強しながら、経験を積んだという。
「もともと働いていたバーがレストランも経営していて、イタリアに提携しているレストランがあったので、勉強のために何度か現地に行かせてもらいました。長期で何年間という感じではなく、2週間滞在を何回かという感じで。日本にも同じように技術のある方はたくさんいるので、技術を学ぶというよりはイタリアの伝統や歴史、どういった食材の使い方をしているかという知識をつけるために行っていましたね。なので、みなさんがするような修行らしい修行はしていないんです。」
「これはあくまで僕の考えなんですけど、修行の期間が長ければいいというわけでもなくて、もちろんお客様に提供できる最低限のラインを超えていることが大前提で、拙くてもクレームをいただきながら現場に立って経験を積んだ方が成長が早いのかなと思っています。不安はいつもあるので、試作や勉強はずっとしていて、お客様に提供するまでに費やした時間が自信になっています。」
京都の飲食店で5年間の経験と修行を経て、23歳で地元・美濃市で「BAR EST」をオープンした島田さん。
自分と同じように、何か新しく事業を始めたいと思っている若者に可能性を感じてもらいたいという想いもあったという。
「たまに地元に帰ってきて、どこかご飯行こうとか、飲みに行こうと思ったときに、行けるお店が少なかったんですよね。若い世代の店主さんもいなくて。当時働いていた京都では10代20代の若い世代がすごく活躍していて、23歳の僕が地元で何かを始めることで、周りからは無謀だと思われるかもしれないけど、それが成功して続けられることを見せられたら、後から面白いことが起きるかもしれないと思って、この地でお店を始めました。」
「BAR EST」では、元バーテンダーである島田さんの豊富な知識と確かな技術で、種類豊富で本格的なお酒を楽しむことができる。
②『うだつ上がるコーラ』の誕生
コロナ禍でのさまざまなご縁をきっかけに、「BAR EST」の経営以外にも、さまざまな事業を手がけている島田さん。
その中のひとつが、クラフトコーラ『うだつ上がるコーラ』の製造・販売だ。
「うだつって検索すると「うだつが上がらない」が最初に出てくるんです。やっぱり「上がらない」の方がイメージが強くて、うだつが「上がる」ってあまり聞きなじみのない言葉だと思うんですよね。」
江戸時代、隣り合った町家の境目に作られた防火壁のことを「うだつ」と呼んでいた。これが次第に装飾的な意味を持つようになり、立派な「うだつ」が裕福な家の象徴となっていったという。
町並みとして現存しているところはとても少なく、美濃市は「うだつ」の町並みが見られる場所のひとつとして、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。
「この町並みを見るために美濃市に訪れる観光客も多いんです。本来は縁起のいい言葉なので、「うだつが上がる」という言葉を広く知ってもらいたいという想いもありました。」
「主要となる材料は岐阜のものを使っていて、現在は、岐阜駅のTHE GIFTS SHOPや長良川サービスエリアなどで取り扱っていただいています。今後、県産品の販売所や、地方の特産品を扱う催事やショップでも取り扱っていただけるよう営業活動をしています。大変ありがたいことに、クラフトコーラをメインに、それに関連して県産品を扱う飲食店やカフェを立ち上げるサポートだったり、いろんな宿泊施設から料理の監修の仕事をいただいています。」
『うだつ上がるコーラ』は、そのまま味わっていただくのはもちろん、ウイスキーやビールに合わせたり、アイスクリームにかけたりと、アレンジ次第でいろいろな味が楽しめる。
「BAR EST」以外にも県産品の販売所や各種イベントなど、さまざまな場所で提供されているので、気になる方はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
③自身の知識や経験で若者をサポートしたい
「BAR EST」を経営する中で、嬉しい瞬間を聞いてみると
「料理が美味しいのは飲食店として当たり前だと思うので、そこに喜びを感じるかと言われたら、正直赤点を回避したくらいの気持ちで、食事をしながら友人と楽しい時間を過ごすとか、家族と大事な時間を過ごすとか、思い出や時間体験を作る空間を提供したいと思っています。なので料理の味で高い評価をもらうより、ここに来ると楽しいとか、新たなつながりができるとか、僕自身もお客様との会話が新しい仕事のきっかけになることもあるので、この空間が何かのきっかけになることが嬉しいですね。」
オープン当初に比べて新規店も増え、この10年間で周辺の景色も変わってきたという。
「市外から移転してきたり、美濃に帰ってきて始める方がいたり、新しいお店は増えましたね。そんな中で、僕が「BAR EST」を始めて、それが長く続いてるから、美濃は飲食店ができる場所なんだと思って来たという声も聞くので、地元に貢献できたというか、事業を始めたいと思っている人たちが可能性を感じられる町にできたのかなと思っています。」
飲食店をやりたいという夢のある若者のサポートやプロデュースも手がける島田さん。若い世代と一緒に仕事をすることへの想いをうかがってみた。
「僕も30歳を超えて少し落ち着いてきた部分もあるし、なにより若い世代が何かをすることが地域の刺激になると思っています。僕に相談してくれて、その子に少しでも力やアイディアがあるなら、飲食店というジャンルで、僕ができる範囲で一緒にいろいろ作り上げたい、頼ってくれるなら少しでも力になりたいと思っています。」
とはいえ、誰かと一緒にやることの難しさを感じることも多々あるという。
「僕は何かしたいと思ったら強い意志でやるタイプなんですけど、やっぱり人によっては、なんとなく何かやりたいなってフワッとした意思のまま来る人もいて、遂行力とか意思の差が出てくるんですよね。良くも悪くも個人経営だったら僕のマンパワーだけで進められるんですけど、誰かと一緒にやるとなると、そういった難しさはすごく感じます。」
④新しいことにチャレンジし続けたい
「BAR EST」の経営のほか、クラフトコーラの製造・販売、料理の監修など、さまざまな事業を手がける島田さん。今後の目標や夢についてうかがってみた。
「ここはここで、できる限り長く続けていきたいと思いますし、もっと楽しいこと、経験したことがないことをやってみたいという気持ちはずっとありますね。そもそもクラフトコーラを作り始めたのも、製造業という新しい分野でチャレンジしたいとか、勉強したいという気持ちからだったので、今は飲食に関わることしかしていないですけど、これまで経験していないことだったり、知らないことにどんどんチャレンジしていきたいです。」
具体的に構想中のもの、進行中のものがあるかうかがってみると、
「飲食店って、建築デザインとか、フードコーディネートとか、写真とか、いろんな要素が入り混じってできているので、そのエッセンスをもっと勉強したり、今まで何となくやってきたことをもっと突き詰めたり、新しい知識を得て、新しい仕事につなげていきたいと思っています。」
「直近でやりたいこととしては、地域を絡めたイベントを開催できたらいいなと考えています。うかいミュージアムのところで毎週長良川夜市というイベントをやっているんですけど、今イベントに携わりながらいろいろ勉強させてもらっているので、ゆくゆくはイベントを開催する側になって、美濃でイベントができたらいいなと思っています。」
これからますます美濃市が発展し、活気があふれる街になることを期待している。
島田さんの手がける料理やドリンクが、県内の各地で楽しめる日も遠くないかもしれない。