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岐阜市にある「GOTOYA Dolce RACCONTO」(ゴトーヤ ドルチェ ラコント)をご存知だろうか。
常時20種類のジェラートを提供する、スイーツ好きにはたまらないお店だ。RACCONTOはラコントと読みイタリア語で「物語」を意味する。ジェラートが紡ぐ物語とはどのようなものなのか、店長である澤木 和也(さわき かずや)さんにお話をうかがった。
- 幅広い世代に愛されるジェラート専門店
- 修行の末にジェラートづくりを身につける
- 砂糖を使いすぎず、素材の良さを活かす
- ジェラートとアイスクリームの違い
- できない人は言い訳を、できる人は方法を考える
①幅広い世代に愛されるジェラート専門店
1985年(昭和60年)にオープンした、GOTOYA Dolce RACCONTO。当時、岐阜だけでなく東京でも、ジェラートを食べながら歩く姿はほとんど見られなかったという。なぜ、ジェラートを販売しようとなったのだろうか?
「オーナーがイタリアに行ったときに、現地で食べたジェラートに感動したことがきっかけです。そして現地でジェラートの作り方を学んでから日本に戻ってきました。イタリアのジェラートがまだ日本で浸透していない時代でした。このお店は、生まれ育った岐阜でジェラートの”物語”を作りたいという、オーナーの思いから始まったんです。」
その後、様々な事情により一時閉店していたが、お客様からの要望が多かったこともあり、2015年に再オープンした。
「ジェラートのお店といえば、10代、20代の女性が中心というイメージがあるのではないでしょうか。しかし当店は、幅広い年齢層のお客様が来店されるんです。」
80年代にオープンした当時は、バス停が目の前にあったこともあり、ラコントのお客様は高校生が中心だった。今は、当時の想い出を懐かしんで訪れる、40代から50代のお客様が多いのだそうだ。
「お子様連れで来てくださる方も多いですね。また隣が和食屋のため、和食を食べた後にデザートとしてジェラートを楽しむ年配のお客様も多いです。年代を超えてずっと来ていただけると嬉しいですね。」
映画「ローマの休日」にはオードリー・ヘップバーンがジェラートを食べるシーンがある。日本に上陸する前から、ジェラートは多くの人にとってあこがれの食べ物だった。極上のデザートは、きっと名画のように人々の心に長く残るのだろう。
②修行の末ジェラートづくりを身につける
GOTOYA Dolce RACCONTOの特徴の一つが、ジェラートの種類が豊富ということだ。これまでに作ってきたジェラートの数はなんと200種類を超えるという。
「200種類のうち、20種類を常時販売しています。売れ行きによって、商品を入れ替えています。」
商品開発は、店長の澤木さんが自ら行っている。前職も、お菓子や料理に関する仕事をされていたのだろうか?
実は澤木店長は、一流ホテルのフロントで経験を積んだ接客のプロだ。その後は学校でホテルでのマナー全般を教えていたという。パソコンや会計についての知識も、フロント業務の中で身に付けた。しかし食べ物を作ってお客様に提供すのは初めての経験だったそうだ。
「作る前から、どんな味になるかは何となく予測ができます。しかし1回では納得のいく味になりませんので、試作して、味見して、材料の分量を変えるなど、いろいろ試行錯誤をしながら商品の開発をしています。」
ジェラート作りへの挑戦に、不安はなかったのだろうか?
「もちろん不安は大きかったです。ですが、当店には20年近く積み重ねてきた極秘のレシピがあります。そのレシピに従い、分量を測って作るので、不安もありましたが頑張ろうと思えました。」
ここまで読んで「秘伝のレシピがあるなら、簡単ではないか?」と感じた人もいるかもしれない。しかし、実際はそんなに単純な話ではない。
「季節によって、ジェラートを取り出すタイミングや牛乳自体の味が変わるんです。ずっと同じレシピでは狙った味にならないんです。状況に合わせて、調整を加える必要があるんです。」
再オープンしてから、澤木店長はオーナーと一緒にジェラートを作っていた。
「オーナーには、私の試作品を味見してもらっていました。最初の数年間は、自分一人ではお客様に出せるジェラートが作れませんでした。たくさん廃棄しました。おそらく100バット(ジェラートを入れる容器)は廃棄しています。」
「今ではジェラート製造を完全に任せてもらっています。」
苦心の末にオーナーからお墨付きをもらった澤木店長だが、現在も商品を改良する努力を続けている。
「ジェラート協会にも登録し、勉強を続けています。材料を増やすことで、滑らかさや味は変わります。食べてみて、調整をしながら作っています。」
③砂糖を使いすぎず、素材の良さを活かす
GOTOYA Dolce RACCONTOのジェラートは、ただ種類が多いだけではない。一番の特徴は無添加・無着色だ。あくまで天然素材にこだわっている。
「当店では素材を活かすというのを一番重要視しています。おそらく素材を活かすというのを売りにしているお店は多いと思います。でもラコントはレベルが違うんです。」
澤木店長が所属するジェラート協会でも、ジェラートのレシピを公開している。しかしラコントのジェラートは、協会のレシピよりもさらに砂糖の量を少なくしているのだという。
「足りない甘みは、フルーツで補っています。フルーツの分量をしっかり増やすことで、本来の素材の甘みが加わります。食べた時に、素材の味がわかるようになっているんです。」
そのこだわりは、ミルク系のジェラートでも同様だ。
「ミルク系は、砂糖の分量を減らして牛乳本来の味が出るようにしています。素材をたくさん入れなければならないので、原価は上がってしまいますが、それでも素材本来の味を楽しんでいただけるようにしています。当店のジェラートは、基本のマニュアルとは製法が全く異なります。本当の意味で”素材を活かす”ジェラートになっているんです。」
例えばラコントで2番目に人気のジェラートは「リンゴ」だ。澤木店長いわく、他の店ではなかなか2番人気にはならないジェラートだという。リンゴのもつ食感をそのままジェラートにしており、リンゴの味が全面に出ているからこそ、リピートが多いのではないかと澤木店長は分析している。
「特にシャーベット系は、砂糖の量を変えないので味が季節によって異なります。同じイチゴでも、1月のイチゴと5月のイチゴは味が違うんですよ。フルーツ本来の味を楽しめます。酸味が強いキウイで作ったジェラートは、少し酸っぱいですしスイカやメロンも、旬を迎えてからの方が濃い味になります。」
同じ果物でも、ラコントを訪れるたびに味が変わる。ぜひ何度も訪れて食べ比べてみたい。
「オーナーの秘伝のレシピでも、素材の味を大切にしています。単にレシピだけでなく、そこに込めた想いも受け継いでいきたい。私が新商品をつくるときも、素材を活かすことを第一にしています。」
実際に筆者もジェラートをいただいた。大袈裟に聞こえるかもしれないが、口に入れた瞬間に驚いたのだ。本当に自然素材の「甘味」が伝わってくる。ここまで言っても半信半疑の読者もいる事だろう。筆者の拙い記事で信用できない読者の皆様は是非一度味わっていただきたい。
④ジェラートとアイスクリームの違い
ところで、ジェラートとアイスの違いは、一体何なのだろうか。ふと気になった疑問を、澤木店長にぶつけてみた。
「その質問は、お客様からよく聞かれます。私はジェラートとアイスには大きな違いがあると考えています。コンビニやスーパーで売っているカップ詰めのものは硬いですし、滑らかさもないですよね。」
確かにコンビニのアイスは固めのものが多い。少し室温で戻さないと、なかなかスプーンが入らないこともある。
「ジェラートは、ソフトクリームとコンビニやスーパーで売っているアイスの間にあるものだと思ってください。パクっとすぐに食べられて、ソフトクリームのような滑らかさもあります。またイタリアのジェラートは乳脂肪の脂肪分がとても低いのも特徴です。ですからアイスクリームよりカロリーも低いんですね。」
確かにアイスクリームは乳脂肪分が高く、カロリーが気になってしまいがちだ。ダイエット中でも気兼ねなく食べられるのはうれしい方も多いだろう。
「ただ、やはり私はアイスクリームとジェラートの一番の違いは、美味しさだと思っています。ジェラートならではの食べた時の口当たりの滑らかさを、ぜひ一度味わってみてほしいです。」
⑤「できない人は言い訳を、できる人は方法を考える」
ラコントは10月から3月中旬まで、平日のみだが、ジェラートの他にモーニングも提供している。なぜジェラート店なのにモーニングを出そうと思ったのだろうか?
「ジェラートは冷たい食べ物なので、売り上げのメインは暖かい季節になってからです。どうしても冬場は売り上げが落ち着いてしまいます。そこで、少しでもジェラートを食べてもらう機会を作りたいと考えました。実は岐阜県って、1家庭あたりのモーニングやカフェに使うお金の消費量が全国1位なんですよ。岐阜はモーニングが有名なので、モーニングという形でジェラートを売れないかと考えて始めました。」
総務省が公表した2022年の家計調査によると、岐阜市の1世帯あたりの喫茶店支出額は、年間1万5616円。3年連続で全国1位なのだ。岐阜市はコーヒーを頼むとトーストやサラダなどがつくモーニングの文化が根付いている。
「喫茶王国」岐阜、3年連続支出1位 名古屋超え(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD068BA0W3A200C2000000/
「喫茶好き」岐阜日本一 年間支出は全国の倍(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/local/gifu/news/20230210-OYTNT50164/
戦略的にジェラートを販売している澤木店長。今後、GOTOYA Dolce RACCONTOはどのような展開を考えているのだろうか?
「将来的に岐阜だけではなく、東海、あるいは全国に届けていきたいと考えています。具体的には、ネット販売や、ふるさと納税という形で全国の人に支えていただける機会を設けることができればいいですね。大きな設備や大きな金額が必要になるので、今すぐにというわけにはいきませんが、将来的にできればそうしたいという夢があります。」
全国でGOTOYA Dolce RACCONTOのジェラートが買えるようになると、お取り寄せで人気が出そうだ。澤木店長が仕事をしている上で、好きなことや意識していることを伺ってみた。
「ホテルで働いていた時代から意識していることは、「できない人はできない言い訳を考える、できる人はできる方法を考える」です。言い訳を考える暇があるなら、方法を考えろということですね。私も否定から入るのではなく、何かできることはないかと考えるようにしています。」
もし澤木店長が修行をしていたときに「自分にはできない」とさじを投げていたら、GOTOYA Dolce RACCONTOの復活はなかったかもしれない。修行を乗り越えた澤木店長が語るからこそ、重みのある言葉だ。
「好きな言葉は「適材適所」と「適当」ですね。あまり肩に力を入れすぎないようにしています。スタッフに仕事を任せるときも、適材適所を意識しています。」
好きな言葉を尋ねて「適当」という答えが返って来たのは初めてかもしれない。適当というと「いい加減」ととらえられがちだ。しかし「いい加減」というのは、すなわち「良い加減」なのである。
GOTOYA Dolce RACCONTOは、現時点で多店舗展開を特に考えていないという。逆に言えば、岐阜を訪れないと味わえない逸品というわけだ。「岐阜の名産といえばジェラート」となる日も、そう遠くない未来かもしれない。スーパーにいろいろな食材があふれ、四季を感じづらくなっている昨今だが、ぜひGOTOYA Dolce RACCONTOで旬を味わってみてはいかがだろうか。