「ミルクコミック」で廃棄乳問題に取り組む関牛乳を訪ねてみた。

TOM
僕もミルクコミックみたいに、牛乳瓶に白い文字を書いてみたよ!飲んでみて!
SARA
分かった!飲んでみるね。あ…い…(え!?もしかして…ドキドキ…)
TOM
う・え・お!
SARA
ドカッ(殴る音)紛らわしいのよ!

 

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関牛乳株式会社をご存知だろうか。
「あんしん、おいしい、低温殺菌」というコンセプトを掲げた、岐阜県民にとって馴染み深い牛乳をつくる企業だ。今回は顧問の吉田 宰志(よしだ さいし)さんにお話をうかがった。

 

 

今回のツムギポイント!
  1. 地産地消を大切にする飲食店に選ばれる関牛乳
  2. お客様の声を聞いて低温殺菌製法を導入
  3. 地元の酪農家から仕入れ、滑らかなガラス瓶で提供
  4. 廃棄乳問題に取り組み、クラウドファンディングを達成
  5. 牛乳を飲む時間をワクワクに変えるミルクコミック
  6. 「関牛乳なら飲める」という人を増やしたい

 

 

①地産地消を大切にする飲食店に選ばれる関牛乳

 

関牛乳は、岐阜県の酪農家から集めた生乳100%、成分無調整の牛乳を提供している。創業当初から低温殺菌製法にこだわり、自然な風味を活かしながら安全でおいしい牛乳を地元の人々に届けているのだ。

 

関牛乳株式会社には90年近い歴史がある。もともとは昭和13年に「吉田牧場」として始まった。そこから関市の「関牛乳」に名前を変える。宰志さんで3代目だ。

 

吉田さんは農学部の畜産学科を卒業。卒論のテーマも牛乳だった。その後食品卸会社で3年ほど働いてから、関市に戻ってきた。

 

関牛乳で作られる牛乳は、さまざまなお店で使われている。たとえば過去に取材したジェラートのお店「GOTOYA Dolce RACCONTO」や「カヌレの店saco」がそうだ。

 

天然素材にこだわったジェラートを提供する「GOTOYA Dolce RACCONTO」を訪ねてみた。 | TSUMUGI.LIFE

カヌレ愛とアンティーク愛を大切にしている「カヌレの店saco」を訪ねてみた。

 

 

面白いのは、牛乳ラーメン・カルボナーラ麺などを提供する飲食店とも取引があること。スイーツだけでなく、幅広いお店で関牛乳の牛乳が選ばれているのだ。

 

 

 

②お客様の声を聞いて低温殺菌製法を導入

 

関牛乳の強みは、やはり低温殺菌製法だ。同社が導入を開始したのは1950年代。今でこそ低温殺菌という言葉はよく見かけるが、当時はかなり珍しかったのでは?

 

「低温殺菌製法に一番こだわっています。昔の牛乳は、65℃から85℃の低温で殺菌するのが一般的でした。その中で、どんどん牛乳の需要が高まっていき、大量生産する必要がありました。しかしその温度で殺菌すると、量をさばき切れません。一方、超高温殺菌は、130℃で殺菌することで、殺菌時間が大幅に短縮されます。低温殺菌は30分(1800秒)、超高温殺菌は3秒。殺菌時間を約600分の1に短縮できます。ですから大規模化していく牛乳メーカーは、そちらの方へ移っていきました。」

 

第一次ベビーブームは1947年から1949年だった。戦後間もない頃、栄養価の高い牛乳の需要は高かっただろう。そのような中で、関牛乳は、じっくりと時間をかけて丁寧に仕上げる低温殺菌製法を選択した。

 

「一部の消費者から、熱をかけずに牛乳を作ってほしいという要望がありました。それに応える形で、うちは低温殺菌牛乳を始めたのです。」

 

おそらく、大量生産できる超高温殺菌牛乳の方が利益が出ただろう。しかし関牛乳は、お客様の要望を優先したのだ。そしてそれが現在に至るまで、関牛乳の大きな強みとなっている。

 

 

③地元の酪農家から仕入れ、滑らかなガラス瓶で提供

 

容器にも特徴がある。今は紙パックに入った牛乳が主流だ。特に小学校は、割れると危ないからという理由で紙パックに切り替えたところも多い。しかし関牛乳は牛乳瓶にこだわっている。

 

「瓶と紙パックでは、口当たりが全然違います。やはり牛乳瓶の方が口当たりが良いのですよ。味覚以外の五感で感じられるおいしさがあるんです。」

 

ガラスの瓶は滑らかで、かつ冷たさが伝わりやすい性質がある。飲み物がより冷えているように感じ、おいしく感じられるのだ。温浴施設で瓶牛乳が好まれるのも、これが理由だろう。またガラス瓶には、飲み物本来の味を邪魔しない良さもある。見た目も高級感があるのだ。

 

また、牛乳といえば北海道のイメージが強い方も多いだろうが、関牛乳は地元の牧場から原料を仕入れているのも大きな特徴だ。

 

「県内産にもこだわっています。地産地消だけでなく、新鮮なものを早くパッケージしたいからというのも理由です。北海道から持ってこようとすると、一週間くらいかかりますからね。」

 

岐阜県の酪農家から直接仕入れている関牛乳は、地産地消にこだわりたい飲食店との相性がバッチリ。そこにはできるだけよいものを地元の方に飲んでもらいたいという、関牛乳の想いがあるのだ。

 

 

 

 

④廃棄乳問題に取り組み、クラウドファンディングを達成

 

関牛乳について取材する上で欠かせないのが「廃棄乳問題」だ。関牛乳では以前からこのプロジェクトに取り組み、クラウドファンディングも実施している。

 

牛乳は保存性が悪く、賞味期限が切れるのが早い。しかし牛は毎日お乳を出すため、売れないからといって生産をストップするわけにはいかない。しかしコロナ禍で学校が休校になったときに、牛乳がストップになり、余った牛乳の行き先がなくなってしまったのだ。

 

「当時、ツイッターでそのことをつぶやいたら、それが全国に広まりました。そしてネットで購入したり、ここまでわざわざ買いに来てくれたりして、牛乳を廃棄せずに済んだんです。うちとしても廃棄乳を出さない取り組みをしようと、バターづくりをしました。バターを作る機械を購入するための出資をクラウドファンディングで募ったんです。その結果、1000万円を超える支援をいただき、バターづくりを始めました。」

 

廃棄乳を減らせ!関牛乳がつくる“フレーバーバター”と“脱脂乳アイス”

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この企画でリーダーを務めたのが吉田さんだ。関市の観光協会とのコラボイベントなど、他にもさまざまな企画を実現している。

 

「自分で考える場合もありますし、周りの方にアイディアをいただくこともあります。いろいろな方に支えていただき、面白いからやってみようという感じですね。何よりも、自分が楽しんでやるのが一番大事だと考え、自分も楽しめるものを企画しています。」

 

 

 

⑤牛乳を飲む時間をワクワクに変えるミルクコミック

 

関牛乳が手掛けたコンテンツの中で、忘れてはならないのが「ミルクコミック」だ。

 

「ミルクコミックは廃棄乳がきっかけで生まれました。学校が再開し、廃棄乳問題が落ち着いたあと「子どもたちは学校で牛乳を残さずに飲んでくれているかな」という疑問が出てきました。せっかく学校に牛乳を納品しても、子どもたちが飲んでくれなければ意味がありません。子どもたちに牛乳を飲んでもらえるにはどうしたらいいかというところで生まれたアイディアが漫画を描くことでした。」

 

たしかに牛乳を飲む人を増やしていかないと、廃棄乳問題の根本的な解消にはならない。しかし漫画と牛乳を飲むことが、どのようにつながるのだろうか?

 

「漫画は瓶に白いインクで描いています。ですから牛乳が入っているときは、漫画が見えないんですよ。飲んでいくうちに4コマ漫画がみられるようになってきて、最後まで飲み切ると、オチがわかるんです。」

 

このプロジェクトは牛乳の日である6月1日に合わせて開始され、岐阜県関市立旭ヶ丘小学校で導入された。特別授業を通じて、子どもたちは牛乳の生産過程やフードロス問題について学んだ。

 

 

 

 

子どもたちが楽しみながら、環境問題について学べるミルクコミックは、テレビや新聞など多くのメディアで取り上げられ、話題となった。最近では2024年4月の「ザワつく!金曜日」で放送されている。

 

https://www.tv-asahi.co.jp/zawatsukufriday/backnumber2/0126/

 

 

⑥「関牛乳なら飲める」という人を増やしたい

 

関牛乳は、どのような人をターゲットに考えているのだろうか?

 

「今、牛乳を飲まない人が増えています。特に学校を卒業してからは、お茶や水、ジュースを飲み、冷蔵庫になかなか牛乳が入っていないという人も多いのではないでしょうか。そういった、牛乳を飲まなくなった人にも、飲んでほしいと考えています。」

 

牛乳が嫌いな理由に「におい」を挙げる人は多い。しかし低温殺菌牛乳は異なるという。

 

「低温殺菌牛乳には、牛乳独特の臭みはありません。スッキリしているけど、飲むとコクや甘みを感じます。牛乳嫌いの人にこそ、おすすめなのが低温殺菌牛乳なんです。牛乳を飲まない人に、ぜひ低温殺菌牛乳のおいしさを知ってほしいですね。」

 

なぜ、高温で殺菌すると臭みが出るのだろう?

 

「生乳には甘みがあります。しかし高温で殺菌すると、牛乳のタンパク質は熱に弱く、臭みが発生してしまうんです。またコクや甘みが出てきません。一方、低温殺菌は65℃で殺菌するので、生乳に近いものになります。タンパク質の臭いを抑えながら、コクや甘みを引き出せるわけです。」

 

実は取材時に、生乳、高温殺菌した牛乳、低温殺菌の牛乳の3種類を飲み比べさせていただいた。たしかに比べてみると甘さや臭いが全然ちがう。砂糖などを使っているわけではないのに、自然本来の甘味がするのだ。飲みながら、牛乳の概念が根本から変わっていくのを感じた。

 

なお、関オ・レや関フルーツ、プリンも、この自然な甘みを生かした商品となっている。

 

 

 

 

「プリンは蒸して作りますが、うちは100℃以下で蒸しています。こうすることで、牛乳の味をそのままプリンにできるんですよ。」

 

このこだわり、関牛乳とタイアップしたい飲食店が多いのも納得だ。

 

吉田さんに、今後の展望や夢、そして座右の銘をうかがった。

 

「関牛乳を知っていただいて、飲んでいる方が少しずつ増えてきています。最近では愛知県とかのお客さんが結構増えてきましたので、愛知県で買えるところを増やしていきたいです。座右の銘は、「意思あるところに道がある」です。自分に目標がないと、いろいろなことをやってもうまくいきません。目標を持ち、底に向かって頑張る姿勢が大事だと考えています。これからも低温殺菌においしい牛乳を広げて、普段牛乳は飲まないけど、関牛乳なら飲めるという人を増やしていきたいですね。」

 

伝統を守りながら、常に新しい挑戦を続けてきた関牛乳。次はどのようなプロジェクトを仕掛けてくるのか、目が離せない。「そういえば最近、牛乳を飲んでいないな」という人は、搾りたてに近い味で飲みやすい関牛乳を、ぜひ手にとってみてはいかがだろうか。

 

 

 

 

関牛乳株式会社

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