岐阜から世界進出を目指す「岐セン株式会社」を訪ねてみた。

 

 

TOM
染色だって!染色ってなに?
SARA
そのままなんだけど、繊維をいろんな色に染めるのよ
TOM
そうなの?じゃあ僕も染色した事あるよ!見て〜
SARA
・・・それって・・・さっきこぼしたコーヒーのシミじゃない・・・

 

この記事は約8分で読めます。

 

瑞穂市にある「岐セン株式会社」をご存知だろうか。
繊維の染色加工事業を中心に世界44カ国に輸出していた、創業80年以上の歴史がある企業だ。今回は、社長の後藤 勝則(ごとう かつのり)さんと、業務全般を統括されている後藤 康之(ごとう やすし)さんにお話を聞かせていただいた。

 

今回のツムギポイント!
  1. 変化し続ける業界を生き抜く柔軟性
  2. SDGsとカーボンニュートラルの両立
  3. 岐センの目指す姿
  4. 適正価格と技術力で持続可能な経営へ
  5. スタッフのやる気こそが最大の財産

 

①変化し続ける業界を生き抜く柔軟性

 

 

岐セン株式会社は、1943年に設立した創立80年以上の歴史ある企業である。当時は、第二次世界大戦の最中で、平和産業(戦争に直接関与しない一般産業)は一つに合併するよう求められ、11社の染色業者がまとまり、「岐阜県整染株式会社」という社名となったことが起源である。

 

その後1951年に「岐阜整染株式会社」へ社名変更し、1973年に名古屋証券取引所の第2部に上場する際、現在の「岐セン株式会社」へと変わった歴史がある。

 

「社名の由来は、設立時に岐阜県整染株式会社となり、その後岐阜整染株式会社へと変更された名残から、現在の社名となった経緯があります。」

 

岐センは当初、綿やスフなどの織物の染色加工の事業を行っていた。当時は、人絹(じんけん)という、絹に近い合成繊維が主流でスフレーヨンと呼ばれていた。しかし、この繊維はシワになりやすく、型崩れをしやすいという欠点があった。

 

「レーヨンが縮まずにシワにならないようにするための、防シワ・防縮加工を初めて工業化したのが、岐センでした。当時は、日本の繊維のフロントランナーとして急速に発展しました。」

 

当時、東洋レーヨン(現在の東レ)が海外に輸出する際には、国内にあるレーヨンの糸を売らなければいけないので、必然的に岐センのブランドが商品登録され、その数は44カ国にのぼった。

 

岐センは、1964年に海外輸出の貢献企業として通産省に認定され当時は大規模に輸出されていた。その年から東レ㈱の海外進出に伴い染色部門の支援で最初はタイの工場の立ち上げ、次はエルサルバドル、台湾、インドネシア、ポルトガルと海外進出を続けた。ここまでが岐センの隆盛期だと後藤社長は話す。

 

その後、ポリエステルやナイロンなどの三大合成繊維が登場もそちらにシフトした。さらに、プラザ合意、第一次・第二次オイルショックなどで、繊維産業は大きなダメージを受けた。

 

「岐センの染色事業は、エネルギー多消費型産業です。ガスや電気を多量使うので、原油価格が上がると連動して一気にコストが上がり、収益を圧迫するんです。」

 

バブル期に入ると、新合繊という形で、マイクロファイバーなど一気にいろいろな糸が出てきた。岐センは、糸種や用途の特性に合わせた技術開発を行い、バブル崩壊など度重なる窮地に追い込まれても乗り越えてきた。

 

「素材転換は常に行ってきました。化合繊複合で得意としている商品開発・加工技術を用いて付加価値を創造して、混沌とした繊維業界を生き抜こうと考えています。」

 

戦時中の混乱期に創業し、80年にわたる試練を乗り越えてきた岐セン。流行の変化が激しい業界において、時代に合わせた柔軟な対応は、多くの企業にとっての指標となるだろう。

 

 

 

 

 

②SDGsとカーボンニュートラルの両立

 

 

本業である繊維の染色加工事業は、一進一退を繰り返しながら現在に至っているが、設備面では先進的な取り組みを行ってきた。岐センはエネルギー多消費型産業であり、エネルギーコストの削減に取り組んでいる。1981年にはすでに木質バイオマスボイラーを導入していた。

 

「老朽化により、今はサーマルリサイクルボイラーでゴミを燃やし、蒸気を発生させることでCo2の排出削減を図っています。」

 

エネルギー多消費型産業であるがゆえ、省エネを継続していた、それにSDGsの課題解決に結びつけたのである。岐センは2020年に環境ブランド「ECOMO(エコモ)」を立ち上げ、サステナビリティをキーワードに環境負荷の低減を目指した商品開発を進めている。

 

また、2013年に森林の間伐材(かんばつざい)を利用した発電事業を子会社として設立した。

 

「この発電事業では、瑞穂市の約2万4千世帯分、厳密には瑞穂市の2万2千世帯を超える電力を発電しています。」

 

この取り組みもカーボンニュートラルとSDGsに貢献しているが、事業開始時の2013年にはそれを意識していたわけではなく、林業活性化の一環として捨てられる木の根や間伐材を電力に変えるという考えから始めた事業であった。

 

岐センの現社長である後藤氏は9代目で、1981年に入社し、2015年に社長に就任した。もともと大学で繊維を専攻し、染色の研究を行っていたため、就職もその延長であった。

 

社長に就任後、環境ブランドのエコモを立ち上げられたりとユニークな発想を事業に転化しているが、環境問題についての想いをうかがった。

 

「日本は環境問題についてはまだ遅れています。圧倒的にヨーロッパの方が環境対応が厳しいので、その基準に岐センは対応しています。日本の繊維業界は技術的には、世界に対してもフロントランナーで全てがトップです。1990年代から、生分解性繊維や再生(リサイクル)ペット開発、省エネ技術の開発をすることで利益につなげていたので、過去に取り組んできたという財産があるのです。」

 

繊維業界は過去の経験があるので、他の業界よりも環境対応しやすいはずだと指摘する。その一方で、環境はこれからもどんどん変わってくるという。ある繊維はSDGsで推奨されるが、ある分野から見ると否定的であったりと複雑で難しいのだ。

 

ただし、現状では「再生=リサイクル」が重要視されており、その時流に乗ることをおすすめすると後藤社長は話す。

 

 

 

③岐センの目指す姿

 

 

岐センの目指す姿を尋ねた。

 

「ホームページにも記載している『岐阜から、世界へ。』です。海外メゾンへの輸出を達成するうえで、高付加価値でオンリーワンかつナンバーワンの企業になることを目指しています。適正価格で商売するには、付加価値のある商品開発力を駆使して、提案する必要があると考えているからです。」

 

本業以外でも、時流に合わせたサステナブルな活動を活発に展開している。たとえば、端材(デッドストック)を活用して新たな製品を展示している。またその際に、水を使わない加工技術を開発し、年間6000トンの節水が可能となる。

 

さらに、工場から出た端材を再生した製品をヤフーショッピングに出店しており、通常は産業廃棄物になるものを価値ある商品として生まれ変わらせている。

 

こうしたサステナブルな取り組みは、グローバルスタンダードに合わせた先進的な試みである。

 

 

日本の繊維業界の現状について、後藤社長に話をうかがった。

 

「ヨーロッパはルール作りが得意で、環境規制などをどんどん作ります。一方、私たち日本はそのルールにどう対応するかを考えるんです。さらに、日本の衣類の98.5%は海外輸入品で、国産はわずか1.5%。私たちはこの1.5%の市場で戦っているのです。」

 

この数字は驚くべき現実であり、その背景にある問題を後藤社長は指摘する。

 

「日本にはトレーサビリティ(製品の製造から消費までの各工程を記録する)を検証するシステムがありません。日本製はトレサビリティの後追いは可能ですが、輸入品はできてません。ヨーロッパのトップメゾン、例えばエルメスでは、受注時に人権や環境の監査にヨーロッパから来るんです。その違いが大きいです。」

 

トレーサビリティを見ても、国による繊維業界の意識の違いが浮き彫りになる。

 

「岐阜から、世界へ。」を掲げる岐センが、日本の繊維業界に新たな風を吹き込んでくれることを期待したい。

 

 

④適正価格と技術力で持続可能な経営へ

 

岐センの課題は人手不足であると話してくれた。
※2024年8月のインタビュー時点

 

「新しい人材を採用するのに苦労しており、特に工場のオペレーションを担う人材を募集しています。」

 

どの企業も人材確保は厳しいが、大企業の方が人が集まりやすいのも事実であると後藤社長は話す。また、離職対策も重要だと続ける。

 

「今期は職場環境など、さまざまな面で環境整備を進める予定です。2025年問題もあり、今後2年間で就労人口が急激に減るため、人材の取り合いがさらに激しくなると考えています。」

 

人手不足に対処しつつ、将来的な問題を見据えた冷静な対応が感じられる。

 

繊維業界における同業他社や競合との関わりについても後藤社長にうかがった。

 

「競合はだいぶ減りました。むしろ今は協業パートナーシップの時代です。価格競争で取り合うのではなく、適正価格で利益を得て、従業員に還元しながら発展していかないと、企業は存続できません。」

 

そのため、どう人材を採用し、育成し、離職を防ぐかが重要だという。さらに、顧客から適正価格をいただくためには、加工技術を提案し、消費者に受け入れてもらえるようトレンドを把握し、その技術を磨く必要があると考えている。

 

「繊維の業界は7年周期で流行のトレンドが変わり、それがスパイラルします。そのため、技術者が一人前になるには7年が必要です。さらに、1年の中でも春夏と秋冬があり、それぞれのシーズンで開発し、トレンドを抑えます。」

 

繊維業界特有のサイクルと、技術者が長期間をかけて成長する苦労が見えてくる。将来的には、オープンファクトリーに参加し、若い世代の理解と関心を引き出すため、自社の技術を広める啓蒙活動を進めたいと後藤社長は考えている。

 

80年以上に渡って培われた技術を次世代に伝えるため、岐センの今後の啓蒙活動の成功を期待したい。

 

 

 

 

⑤スタッフのやる気こそが最大の財産

 

 

今後の展望について、後藤社長にうかがった。

 

「社員はとにかく前向きに活動し、他社よりも早く新しい商品を提案することです。その際は、100%完成を目指すのではなく、70%くらいの段階でお客様に意見を求め、それを持ち帰って開発の会議でブラッシュアップする。この一連の流れを確立したいと考えています。」

 

これにより、化合繊複合でオンリーワンかつナンバーワンの会社となり、金銭面の還元も含めて従業員みんなで喜びを分かち合えると考えている。

 

岐センの社員の社内親睦会は、参加率が高い。会社が補助を出しているとは言え、社員のモチベーションやコミュニケーションのきっかけになっていると後藤社長は考えている。

 

「私にとって社内親睦会は、意識の共有の場にもなり貴重な時間となっています。自分がやりたいことをしっかり相手に伝えて、そのために求める行動を示すという意識の共有ができるからです。他にも意識の共有の場を社内に根づかせていきたいです。」

 

直接顔を見てコミュニケーションを取れるからこそ、相手に真意が伝わることがある。後藤社長は社員とのコミュニケーションを重視する対話型の経営者である。

 

80年以上の歴史を持つ岐センは、時代の変化に柔軟に対応しながら、常に革新を追求してきた。グローバル視点での業界動向、環境への配慮、人材育成など、多面的なアプローチで業界に影響を与えている。

 

今後、岐センがさらなる成長を遂げるためには、同業他社との協業や、地域との協働を強化し、新たな技術開発や人材確保の機会を広げていくことが重要だろう。

 

岐センの挑戦が、日本の繊維産業全体の活性化につながることを期待したい。

 

 

 

 

岐セン株式会社

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