季節感を大切にする「御料理・仕出し 早川屋」を訪ねてみた。

TOM
早川さんの座右の銘、どれも素敵だねぇ
SARA
特に「気負いすぎず、良い感じに力を抜く」っていうのがいいわよね〜
TOM
僕も気負わずにダラダラ生きていくよ〜
SARA
アナタはもう少し気合を入れた方がいいと思うわよ…

 

この記事は約7分で読めます。

 

岐阜市にある「早川屋」をご存知だろうか。1950年代から続く、季節感を大切にした懐石・会席料理を提供するお店だ。今回は、代表であるお父様やご家族と一緒にお店を切り盛りしている、早川 雄一郎(はやかわ ゆういちろう)さんにお話を伺った。

 

 

 

今回のツムギポイント!
  1. 創業者の想いを親子で受け継ぐ
  2. 「ものづくり好き」が高じて料理の世界へ
  3. 伝統を守りつつ、時代とともに変化
  4. 力を抜くのが長続きのコツ
  5. 生け花の師範を取得しお座敷を花で彩る

 

 

①創業者である祖父の想いを親子で受け継ぐ

 

「早川屋」のルーツは、酒類・食料品・日用品などを販売する「早川商店」である。明治もしくは大正期に始まったとされているが、記録は残されていない。「早川商店」では、食料品をただ売るだけでなく、自分たちで加工して売っていた。煮売屋(にうりや)、今でいう総菜屋だ。さらに角打ち(酒屋の角にカウンターを作り、酒や軽食を提供すること)もあったという。

 

早川屋は、雄一郎さんの祖父である義男さん(故人)が、戦争から戻った後に始めたお店だ。現在は、この「御料理・仕出し 早川屋」がメインの事業となっている。料理は雄一郎さんとお父様の善一さん、お母様の美佐子さんが中心となり、長年勤めて調理技術も確かなスタッフ数名とともに作っている。さらに雄一郎さんの奥様である利佳さんは調理に加え接客も担当するなど、ご家族で老舗のお店を守っている。

 

早川屋の強みは、なんといっても早川家の人間及びベテランスタッフの手から生み出される和食の数々だ。お客様からの要望にも、可能な限り応えるようにしている。

 

「夏には、鮎ばかりの会席料理を食べたいという要望がお客様からあり、対応しました。そのときに作った料理は、お店のInstagramにも上げています。

 

メニューは定番の塩焼きをはじめ、鮎のアーモンドフライ、鮎の魚田(味噌田楽)、マグロと活鮎のお造り、鮎雑炊と、まさに鮎づくし。長年、岐阜で会席料理を作り続けている早川屋でしか味わえないコースとなっている。また、岐阜で有名な郷土料理といえば「朴葉味噌」だ。朴葉味噌の定番は豆腐と肉だが、これを鮎で作ったこともあるという。

 

そんな早川屋で力を入れている料理のひとつが「鰻」だ。裂き、刺し、焼き、すべての工程を早川屋で行っている。蒲焼きはもちろん、白焼きや骨せんべいもあるのが嬉しい。土用の丑の日には特設の屋台を設置しており、地元の人達が買い求めるという。早川屋が鰻にこだわるのには理由がある。

 

「早川屋を創業した祖父が、ずっとやりたがっていたのが、鰻屋だったのです。土地を買って、そこに鰻屋を作る予定でした。」

 

しかし、志半ばで祖父の義男さんはこの世を去ってしまう。その夢を引き継いだのがお父様と雄一郎さんなのだ。次の土用の丑の日には、早川屋秘伝のタレに漬け込まれた鰻を食べてみてはいかがだろうか。

 

 

 

 

 

②「ものづくり好き」が高じて料理の世界へ

 

雄一郎さんは、大学で経営学部を専攻していた。卒業後は調理師の専門学校に通い、料理の基本的な技術を身に付けた。そして1年間、三重県のお店で修行した後、24歳でこの早川屋に戻ってきたのだ。やはり、当初から早川屋を継ぐことを意識して将来を設計していたのだろうか?

 

「いえ。僕はそんなに早川屋を継ぎたいとは思っていなかったんですよ。ただ僕が大学を卒業したのは1999年、いわゆる超氷河期世代です。求人自体が少なく、運よく就職できたとしても内情はブラック企業だった、なんていうことも珍しくない状況でした。実際にそういった企業で働いて、心を病んでしまった知人もいます。周囲にも、就職せずに自営業を選択した人も多いですね。」

 

令和の今でこそ人手不足の業界は多いが、当時はいわゆる「ホワイト」な大手企業の求人がほとんどなかった。才能がある人が必ずしも報われるわけではなかった理不尽な時代に、雄一郎さんは大きな決断をする。

 

「振り返ってみると、僕はずっと「ものづくり」が好きでした。ものづくりができるのであれば、建築でも何でも良かったのです。だから、早川屋をやるのなら、料理をやってみようと考えました。」

 

そして料理の道に進んだ雄一郎さん。しかし調理師学校に通うまでは、ほとんど包丁を握ったこともなかったという。ほぼゼロの状態から学び、和食をマスターした。そんな雄一郎さんに、料理を作っていて、喜びを感じるのはどのような時かと尋ねてみた。

 

「やはり、お客様に『おいしい』『ありがとう』と言ってもらうことが一番です。これはもう間違いないですね。」

 

そう言って、笑顔を見せた雄一郎さん。紆余曲折の末に、やりたいことを見つけたというわけだ。

 

 

 

 

③伝統を守りつつ、時代とともに変化

 

早川屋は、これまでずっと予約制で団体のお客様を受け入れて来た。予約制なら事前に人数がわかるので、事前に必要な仕入れの量がわかる、廃棄もしなくてすむ、従業員の調整もしやすいなどメリットが大きい。

 

大広間は、テーブル席なら約50名、座敷であれば約80名と大人数のお客様に対応できる。たくさんのお客様においしい料理を提供できるのが、早川屋の強みだったのだ。

 

しかし、新型コロナウイルスの流行により、この強みが弱みになってしまう。当時はいつ誰が新型コロナウイルスに感染するかわからない状況だった。国や県から休業や時短営業の協力要請が続いたことも相まって、お客様の予約が激減した。法事なども、これまではみんなで早川屋に集まって、話をしながら食べていたのが「仕出し弁当でいいか」となってしまった。早川屋ではもともと仕出し弁当もやっていたが、2020年から2021年は仕出し弁当ばかりになってしまったという。

 

2023年12月現在、新型コロナウイルスはほぼ収束している。早川屋でも客足は戻っているのだろうか?

 

「戻りつつあります。ただ、会社に勤めている方はわかると思うのですが、コロナ禍が終わっても、以前と比べて飲み会の機会は減っています。『別に飲み会をやらなくてもいいか』と考える人が増え、それがスタンダードになりつつあるのです。まだコロナがなかった2019年以前の状況には完全には戻らないと思います。」

 

打開策として雄一郎さんが考えていること、それはファミリー層などの新規顧客の開拓だ。

 

「新規のお客様に、気軽に来ていただけるお店づくりを目指して行こうと考えています。」

 

現在は、1人から6人のファミリーのお客様が、予約なしでも立ち寄れるプランを準備中だという。今は少子高齢化が進み、核家族が増えている。伝統を守りつつも現状に柔軟に対応し、より地域の人に愛される店作りを目指している。

 

 

 

 

④力を抜くのが長続きのコツ

 

雄一郎さんに座右の銘を尋ねてみた。事前にお伝えしていなかった質問にもかかわらず、雄一郎さんは間髪入れず、かつ淀みなくスラスラと答えてくれた。

 

「四字熟語だと、似たような意味ですが『明鏡止水』と『虚心坦懐』です。明鏡止水は『邪念がなく、澄み切って落ち着いた心』を意味します。また、虚心坦懐は『心になんのわだかまりもないこと』という意味です。ことわざだと『下手の考え休むに似たり』『習うより慣れろ』です。いつも、とにかくやってみようという気持ちを大切にしています。あとは『論語』にある孔子の言葉、『己の欲せざる所は人に施すこと勿れ』です。『自分がやられて嫌なことは他人にするな。好まないことを押しつけてはだめだ、思いやりが大事だ』という意味です。」

 

これまでたくさんの方にこの質問をしてきたが、その場で5個も回答が出てきたのは初めてだ。それだけ、普段から心に留めている言葉、まさに嘘偽りのない言葉だと言える。また、雄一郎さんの地頭の良さも感じられる。必ずしもすべての人が大学に進学する必要はないが、雄一郎さんはしっかりと教養を身に付け、それを実生活でも実践しているのだろう。そんな雄一郎さんだが、仕事をする上で大切にしていることがある。

 

「良い感じに力を抜くことです。僕は正直に言って、この世界に入るまでは家の手伝いをしたことがあまりありませんでした。やる気もそんなになかったんです。ただ、まっさらだったからこそ、調理学校や修行先で学んだことを素直に吸収し、それを早川屋にも還元できたのだと考えています。これまで、気負いすぎている人をたくさん見てきました。しかしそういう人の中には空回りしてしまい、燃料切れになってしまって、長続きしない人も多いように思います。」

 

 

 

 

⑤生け花の師範を取得しお座敷を花で彩る

 

気負いすぎない、力を抜いて物事に取り組む。そんな雄一郎さんの考え方を象徴するエピソードがある。

 

「実は僕、生け花をやっているんですよ。」

 

凛と背を伸ばし、あるいは大きく枝を広げ、早川屋の室内を美しく彩る花たち。早川屋を訪れるお客様の目を楽しませ、心を和ませている。その花々は、雄一郎さんの手によって生けられたものだという。

 

「お座敷に花を立てるために始めました。元々は母が生けていたのですが、自分もやってみたいなと思ったのです。習い始めた当初は、花のことは全然わかりませんでした。最初はそこまで興味がなかったのですが、やってみてその奥深さにのめり込みました。11年やって、今は師範です。ゼロから始めて、気負わず「楽しいな」という気持ちでいたことが良かったのだと思います。」

 

生け花もまた「ものづくり」のひとつと言えるだろう。雄一郎さんのクリエイティビティは、料理だけでなく生け花にも生かされているのだ。早川屋には絵も飾られているのだが、そちらは雄一郎さんのものではないという。

 

「絵は伯母の手によるものです。名前は浅井 佳子といいまして『木洋会』という絵画の会を主催しており、油絵を描いているんですよ。岐阜新聞にもときどき掲載されています。」

 

取材したタイミングでは秋だったので、鮮やかに熟した柿の絵が飾られていた。

 

「料理にプラスして、花や絵も楽しんでいただければと思います。」

 

料理だけでなく、花や絵も季節によって変わる。舌だけでなく、目でももてなされる早川屋のサービス。ぜひ早川屋で、大切な人たちとの思い出に新たな1ページを添えてみてはいかがだろうか。

 

 

 

 

 

 

早川屋

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です