現役消防士がクラフトビール作りのお店を営む「美濃加茂ビール」を訪ねてみた。

 

 

TOM
サラ、僕もついに大人の味が分かるようになったんだ。
SARA
あら。何か好みに変化があったの?
TOM
見て、ビールだよ!麦の甘みってやつが分かるようになったんだ♪
SARA
・・・それ、ビールに似せた子供用のジュースよ・・・

 

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美濃加茂市にある「美濃加茂ビール」をご存知だろうか。
現役消防士が地域貢献を目的に、地元の特産品を使ったクラフトビール作りをしているお店だ。今回は、一般社団法人8knot 代表理事 仙田大騎(せんだだいき)さんにお話をうかがった。

 

今回のツムギポイント!
  1. 美濃加茂ビール誕生秘話
  2. 使命感と情熱が生んだ地域貢献事業
  3. 美濃加茂の恵みが循環するビール
  4. ビアテイスター取得が今後の目標
  5. 美濃加茂発、周辺市町を盛り上げる新ビジョン

 

①美濃加茂ビール誕生秘話

 

まずは美濃加茂ビールの名前の由来をうかがってみた。

 

「地元の人たちに愛されるビールになってほしい、できるだけ親しまれるビールという思いを込めて、『美濃加茂ビール』と名付けました。」

 

 

そのようにお店の由来について話す仙田さん。この事業は地域貢献を目的としているため、美濃加茂を付けることもその一環だと考えている。そのため、屋号は「美濃加茂ビール」で、法人名は「一般社団法人8knot(エイトノット)」としている。

 

仙田さんは現在、愛知県の犬山市で消防士をしている。出身は岐阜県可児市で、高校生活を美濃加茂で過ごした。美濃加茂は幼少期から親しみのある地域でもあったので、法人立ち上げ時に、どの地域を拠点とするか迷っていた。

 

「拠点はストーリーのある場所にしたかったのです。その点でこの地は、中山道の旧宿場町の太田宿なので、宿場町という歴史があります。江戸時代には火消しが街を守っていたこともあり、自分が現代の火消しとして、この宿場町を盛り上げていきたいと思い、美濃加茂に決めました。」

 

仙田さん自身が消防士ということもあり、火消しとリンクしているのがポイントだ。つまり、一般社団法人としての活動拠点を美濃加茂にして、活動範囲は美濃加茂・可児や犬山にも拡大して、地域貢献をすることを目的としているのである。

 

「ロゴもデザイナーに依頼し、『み』は美濃加茂から引用して、江戸の雰囲気を出して、火消しを挿入することでいわゆる『め組の火消し』風に表現しているのが特徴です。」

 

お店の建物は、平成に建てられた比較的新しいもので、宿場町の雰囲気に合わせて作られたおしゃれなデザインとなっている。

 

先人の火消しが守ってきた宿場町を、ビール製造と販売という新しい形で、現代の消防士が地域に貢献しているユニークな試みが、美濃加茂にある。

 

 

②使命感と情熱が生んだ地域貢献事業

 

消防士の仙田さんが地域貢献事業を両立して行っている理由は、金銭面の支援を通じて街の活性化に貢献したいという強い思いがあるからである。

 

「消防は、病気や怪我をされた方、火事に遭われた方々を助けることができます。一方で、街への金銭面の支援は難しい側面があります。ですから、事業を通じて収益を上げて、その収益を使っての支援を行っています。」

 

仙田さんの地元愛は非常に強く、地域の方々に育てられた恩返しとして事業を営んでいるとのことである。なお、仙田さんは消防士、ビール事業、子育てを見事に並立させている。

 

「人間は甘えるときもあるので、簡単に投げ出せないように、自ら退路を断つ状況を意図的に作りました。銀行からの融資を受けたのもその一つで、借金は返さなければいけないですからね。」

 

大々的に宣伝している現状や応援してくれる人がいるため、融資は順調に返済できているという。自らを追い込むことで、地域貢献活動への覚悟と本気度が伝わってくる。

 

仙田さんは、今後もビール製造を続け、地域貢献をさらに深めていきたいと意気込んでいる。

 

地域貢献事業としてなぜビールの製造を選んだのか、その理由についてたずねた。

 

「日本や海外の、その土地でしか飲めないビールが好きだからです。また、クラフトビールは、地元の特産品を活用しているため、観光客が地元を知る良いツールだと思いました。自分の好きなことと、やりたいことが一つにつながったので、一歩踏み出してみたわけです。」

 

 

仙田さんのビール好きと地元愛が掛け合わさり、最適なマッチング事業が誕生したのである。

 

ビール製造に向けて、東京と郡上八幡の醸造所で約2年間修行をした。東京では基礎を1年間、郡上八幡では実践的な内容を1年間、いずれも消防士との両立のため、消防の休みの日を使って通って学んだという。好きでなければ続けられないタイトなスケジュールである。

 

ビール作りは、温度や細かい配分、材料を入れるタイミングなど、作るビールによって作り手のこだわりが反映されるという。

 

「いろいろなビールを飲んで美味しいと感じたものを参考にしたり、どのタイミングで材料を入れると一番美味しくできるかを自分で考えたりして、レシピを作っています。」

 

ビール作りは、素人が想像出来ないほどに、作り手のこだわりが反映される、奥深い飲み物なのである。

 

 

③美濃加茂の恵みが循環するビール

 

美濃加茂ビールは、お店でタップから注ぐ生ビールとして楽しむことができる。季節ごとにラインナップは変わるが、店内では常時4種類のクラフトビールを提供しており、ビールのつまみとして乾き物も販売している。

 

お店以外では瓶で販売しており、清流里山公園にある道の駅やマリオットホテル、オンラインでも購入可能である。仙田さんは、特に店内で飲む生ビールを一番おすすめしている。

 

「うちのビールは、きめ細やかな泡が特徴で美味しいんです。ビールは酸素に弱いので、酸素に触れにくいビールサーバーで注ぐ生ビールの方が、フレッシュで美味しいんです。」

 

 

ビールは繊細で、酸素が触れることで色が変わったり、酸化臭がしたり、炭酸が弱まったりするという。瓶詰めの際も酸化を防ぐ工夫をしているが、それでも酸素が少し残るため、生ビールを推奨している。一方で、瓶でも美味しく飲めるように工夫を重ねている。

 

「大手のビールは酸化対策が徹底されていて酸素の含有量が少ないんですが、小規模ブルワリーのクラフトビールには、酸素に触れるリスクが残ります。その点、美濃加茂ビールは、工程を最小限にして酸化対策にこだわっています。」

 

美濃加茂ビールの特徴の一つが、季節ごとに採れる地元の特産品を使ってビール製造をしていることである。

 

「梨のホワイトエールは、収穫時に傷がついた梨を使ったり、蜂蜜のゴールデンエールは、糖度が低く売り物にならない蜂蜜を使用しています。これらすべて美濃加茂で採れたものを買い取って、フードロス削減につなげています。」

 

さらに、ビール製造で使用した麦芽をニワトリの餌として提供している。フードロスの観点からも、地域内での循環を大切にしているのが仙田さんのこだわりである。美濃加茂ビールは、味や品質だけでなく、地域の細部にわたって配慮しているのが特徴である。

 

 

④ビアテイスター取得が今後の目標

 

美濃加茂ビールは、季節ごとに採れる地元の特産品を使い、新たなレシピを考案している。初めて使う材料も多く、試作から完成までの期間は、使用する酵母によって異なるが、美濃加茂ビールは約1ヶ月の時間を要する。

 

その際、製品化の判断を仙田さん一人で行うことが課題だと語る。

 

「人それぞれ、この香りはよく香るけど、この香りは香りにくいなど、香りの偏りがあります。私にも鈍感な香りがあるので、そこを補完してくれる協力者がいてくれたら、もっとビールの質が良くなると考えています。」

 

そのため、偏ったビールにならないよう、ビールの出来の良し悪しを客観的に判断できる、ビアテイスターの取得を考えている。さらに、その先の目標として、ビアジャッジの資格取得を目指しているという。

 

「ビアテイスター取得後は、ビールを飲んで評価することができる、ビアジャッジを取りたいです。品評会でビールの審査をすることができるので、いろいろなビールに触れる機会ができ、さらなる質の高いビール作りの勉強につながるからです。」

 

一人での味見という課題に対し、ビアテイスターの資格で克服を目指す仙田さん。質の高いビール作りに向けた現実的な取り組みは、今後の美濃加茂ビールに対する期待感を一層高める。

 

 

⑤美濃加茂発、周辺市町を盛り上げる新ビジョン

 

仙田さんは、消防士とビール製造事業を両立しており、今後もどちらか一方に注力する考えはないと語る。

 

「地域貢献は、自分の生活を犠牲にしてできることではありません。今は消防士という安定した生活基盤があるからこそ、余力で地域貢献ができています。もし、どちらか一方に絞ると余力がなくなり、地域貢献が続けられなくなるため、現状を維持する予定です。」

 

安定した生活基盤があるからこそできる地域貢献。地域貢献には、心理的な余裕が重要であることが理解できる。

 

なお、ビールを作る日は、消防の仕事で急な呼び出しがない日にしている。また、アルバイトを雇い、仙田さんが不在でもお店が運営できるように仕組み作りを行っている。これにより、大災害時の急な呼び出しにも対応でき、ビール作りにも専念できるのである。

 

美濃加茂ビールとして、今年のビジョンについてうかがった。

 

「犬山と可児に桃太郎伝説があり、それを題材にしたビールを作りたいと考えています。桃太郎は、犬山の栗栖地区で桃から生まれて、春里の塩という場所に鬼ヶ島があるとされています。それにちなんで、犬山の特産品の桃を使ったビールと、塩を使ったゴーゼスタイルのビールを作ります。」

 

可児川に大きな中洲があり、そこにあるゴツゴツした岩に鬼がいるとされている。昔、鬼に苦しめられてきた村が、桃太郎によって救われて春里になったという言い伝えがあるという。地元の人々にもあまり知られていないため、このビールが地域の歴史を知るきっかけになると考えている。また、犬山と可児の桃太郎絵本を地元の小学校に配る構想もしている。

 

「今後は、美濃加茂を拠点にして、その周辺市町も一緒に盛り上げていきたいです。」

 

 

立ち上げ時の思いそのまま、ビール製造をきっかけに純粋に地域貢献を続けていくのである。

 

美濃加茂ビールは、地元愛にあふれるビール作りをしている。
季節ごとの特産品を活かしたクラフトビールを楽しみながら、地域に根ざしたストーリーを体験してみてはいかがだろうか?
ぜひ美濃加茂ビールのお店に足を運び、その味わいを直接感じることをおすすめする。

 

 

 

 

 

 

美濃加茂ビール

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