この記事は約6分で読めます。
岐阜市西材木町にある「ドイツ デリカテッセン クリンゲン(KLINGEN)」をご存知だろうか。
ドイツの国家資格・食肉マイスターのもとで修行した店主が開く、ハム・ソーセージ・ベーコンの専門店だ。切り盛りをする野村 吉央(のむら よしお)さんにお話しをうかがった。
- 35歳で独立への一歩を踏み出して
- 師匠のもとで5年間の修業
- 地産地消にこだわった製品づくり
- 人気はドイツウインナー
- 取り扱う種類を増やしていきたい
① 35歳で独立への一歩を踏み出して
岐阜市西材木町にある「ドイツ デリカテッセン クリンゲン(KLINGEN)」。本格的なドイツの製法でつくるハム・ソーセージ・ベーコンの専門店だ。
店名である「クリンゲン」とはドイツ語で“鐘の音色”という意味。「おいしい!という声や仲間との笑い声。いろいろな声が美しい音色となって響きわたりますように」という意味が込められている。まずは、そんな「クリンゲン」を開店するまでの経緯を、野村さんにうかがった。
「私が35歳のときに、飲食関連で独立をしようと決めました。それまではサラリーマンで”食”に興味があり、食品メーカーに勤めていました。」
勤め先は、外資系の食品メーカー。世界的にビジネスを展開する大手企業だった。もともと、”食”に興味があり入った世界だが、いつしかお客様と対面でできる商売をやりたいと思うようになったそうだ。
「会社勤めのころは、大手の企業でしたので世界に向けて仕事をしていました。でも私は、お客様と面と向かいあってする仕事のほうが向いているような気がしていたので、好きな”食”関連で手づくりのお店をできればと考えはじめたことが、そもそものきっかけでした。」
会社をやめて商売をする。そう考えていたものの、当時は具体的な商材は決めていなかった。ただ、年齢的なことも踏まえて、下調べは入念にしたという。いろいろと調べていく中で浮かんできたのが、ソーセージなどのデリカテッセン。
「やってみると楽しそうだなというのがひとつ。そして、35歳から始めて成り立つかどうか、現実的なところを考えました。ソーセージなどはどの世代にも好まれているんです。でも専門店が少ないなということが見えてきました。」
こうしてソーセージ類にしぼって、独立への道を模索し始めた。数少ない専門店とは言え、お客様がついてくるには、どうしたらいいか。
「ちゃんとしたところで修行しないと、という考えはありました。それを思い描いていたときに、たまたまなんですけど、学生の頃に知っていた専門店でスタッフを募集してたのを見て応募しました。」
現在も師と仰ぐ「食肉マイスター」である小島豊氏に弟子入りすることになり、茨城県守谷市の「ハンス・ホールベック」で勉強する毎日がスタートした。
② 師匠のもとで5年間の修業
「食肉マイスター」とは、ドイツの国家資格。元々ドイツは資格制度が発達しており、様々な職種において、知識、経験、技能などを兼ね備えた人を「マイスター」として認定している。
「マイスターを取得するのは簡単なことではありません。資格も何段階かに分かれており、実務経験なども必要です。そのため師匠はずっとドイツのお店で働いて認定を受けたんです。」
この「マイスター」には、自分の持っている技術や知識などを何十年先まで伝えていくことも含まれている。そのため一子相伝や背中を見て育つというものではなく、継承もしっかりと考えられているのが特徴のひとつだ。
「師匠もどんどん後継者を育てていこうという方でした。私にも兄弟子も弟弟子もいますし、基本的にみんな、独立をすることが前提で修行をしている形です。私の場合、修行期間は5年ほどでした。」
野村さんも小島氏のもとで経験や知識を積み、独立した。地元である岐阜に戻り、実家を改装。「クリンゲン」を開業した。
③ 地産地消にこだわった製品づくり
改めて野村さんに、お店の特徴を聞いた。まずひとつ目は、本格的なドイツ製法を用いていることだ。ソーセージづくりは、ヨーロッパやアジアなどでも行われるが、実は国や地域でつくり方は異なる。
「本場と言われるドイツでも、つくり方は東西南北で全く違います。うちは南の製法なんです。」
次にこだわっているのは、食材。「クリンゲン」のソーセージやウインナーは、岐阜県産の豚を使用している。さらに燻製チップも地産地消にこだわっているそうだ。
「現状、基本的に豚肉は岐阜県産を使っています。それから、燻製にするチップは、ヨーロッパではリンゴやくるみ・ブナを用いることが一般的です。修業時代からブナを使用していましたし、岐阜で手に入りやすい物をと考えてブナを使っています。」
「実は岐阜県は、土地に対する森林の割合=森林率が全国で2番目に高いんです。8割ぐらいが森林なんです。そこで、岐阜県のブナで燻製チップをつくることにしました。燻製チップだけをつくる工場などはないので、ウッドチップをつくる会社さんに相談して特注でつくっていただいています。」
本場の製法を用いつつ、地元・岐阜にこだわった製品づくり。そのほとんどが手づくりで、見慣れない珍しい商品も並んでいる。数多いラインナップも魅力的だが、生ハムなどは取り寄せもしているそうだ。
「生ハムは気候的にも設備的にも、ここではつくれないので取り寄せています。今、ご提供しているのはオーストリアの生ハムです。それ以外の商品は全部ここでつくっています。」
④ 人気はドイツウインナー
「生ハム以外は、加熱済みなので、そのまま食べることもできます。でも、ウインナーなどは茹でたり、焼いたりしてもらったほうがおいしいです。ベーコンも、お料理に使ってもらうと、より旨みが出ますよ。」
店内には所狭しと商品が並ぶ。それだけでも圧巻だが、野村さんからすると「これでも少ないぐらい」だそうだ。その中での人気商品も聞いてみる。
「小さいお子様から年配の方まで皆様が召し上がるという意味では、ドイツウィンナーが人気です。シンプルな細挽きと粗挽き。この2種類は手に取っていただくことが多いですね。」
シンプルながらおいしそうなウインナーやソーセージ。食べ方などはわからない場合は、野村さんが教えてくれる。それもまた「クリンゲン」の魅力だ。
「どうやって頼んだらいいのかわからない。どれを選んでいいのかわからないというお客様は非常に多いです。なので5種類の詰め合わせの食べ比べやハムのバラエティパックなども人気がありますし、迷った際にはお気軽にお声がけいただければと思います。」
⑤ 取り扱う種類を増やしていきたい
「クリンゲン」でしか出会えないウインナーやソーセージを手づくりし、お客様と向き合う日々。今後の展望として考えているのは、どのようなことだろうか。
「お店を大きく増やしていこうという気はないんです。お客様の中にはドイツの方やドイツにゆかりのある方もいらっしゃいます。こんな商品があったという話などができるので、店頭には立っていたいなと思うんです。」
野村さんは自らお店に立っている。お店を大きくしすぎると、接客の際に商品の説明などができなくなってしまうなどデメリットも見えてしまうという。その一方で「知名度をもっと上げていきたい」という気持ちも芽生えている。
「もっと多くのお客様に知っていただけるようにしたい。ご利用いただきたいという思いはありますし、取り扱う種類も増やしていきたいと思っています。」
現在は地元のお客様が中心だが、今後はもっと多くの人々に、おいしいソーセージやウインナーを届けていきたい。そのため、手に取りやすいキッシュなど、デリ系のものなどを考案中だそうだ。そしてもうひとつ力を入れていることがある。
「自動販売機で気軽にハムやソーセージが買えることもお伝えしていけるようにしたいなと思っています。」
35歳で脱サラをし、岐阜市西材木町に「クリンゲン」を構えた野村さん。本場ドイツの製法でつくるおいしいソーセージやウインナーは、唯一無二の味になっている。夕食の一品やお酒のアテにもぴったりだ。一皿を加えに、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。