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柳ヶ瀬にある「PENGUIN BOOTS+(ペンギンブーツプラス)」をご存知だろうか。
自分で描いた絵をカバンやTシャツに手軽にプリントできるシルクスクリーンが体験できたり、オリジナルの缶バッジを作ることができるワークショップスペースを運営しているお店だ。今回は店主のすぎやま えみこさんにお話をうかがった。
- 「お客様とより近く、いつでも来ていただける場所がいい」の想いで出店
- 「スロメからペンギンブーツプラスへ」柳ヶ瀬シルクスクリーンの引き継ぎ
- 続けることが大事!「柳ヶ瀬面白いかも!」で柳ヶ瀬の未来を紡ぐ
- 「お金は必要だけど重要じゃない」迷ったら楽しい方へ!
- ペンギンブーツプラスでシルクスクリーンを体験してみよう!
①「お客様とより近く、いつでも来ていただける場所がいい」の想いで出店
柳ヶ瀬にお店を出店したのは2017年のこと。出店当初は、ファッションデザイナーであるご主人が作られた洋服や、服を作った余りの布を使った缶バッジを販売していた。すぎやまさんは本業でイラストレーターをされながら異業種での出店をされている。きっかけを伺ってみた。
「イラストレーターは仕事の特性上、Zoomや電話で打ち合わせができるので、在宅で完結できるというメリットがあるんです。その反面、この生活でいいのかとだんだん不安になってきたんです。対面で会ったこともない、リアルで誰とも繋がっていない状況だったので、それが怖くなってきたんです。」
不安を解消するべく、意を決して美殿町にあるシェアオフィスに入居した。その場所は、同じフロアに店舗が入っていた事もあり、お店と間違えて事務所に入ってくるお客様もいた。すぎやまさんはそのとき、お店と勘違いして訪れた人を追い返すのではなく、仲良くなりせっかく来てくれたのだからと、周辺のお店の情報を案内したのだという。
「案内していたら、コミュニケーションを取る事が面白いと思えてきたんです。そんな時に、サンデービルヂングマーケットがスタートしたので、試しにお店を出してみました。やってみたら、直接お客様に物を販売することがとても楽しかったんです!」
「その体験から、お客様とより近く、いつでも来ていただける場所が欲しいと思って、ここ(ロイヤル劇場ビル)に出店したんです。」
人との接点により、自分の中の「楽しい」を新しく発見できた瞬間だったそうだ。
②「スロメからペンギンブーツプラスへ」柳ヶ瀬シルクスクリーンの引き継ぎ
2017年に「スロメ」というシルクスクリーンのお店が、ロイヤル劇場ビル内の同じフロアで一緒に出店した。そのとき、すぎやまさんは初めてシルクスクリーンに触れたと話してくれた。
ペンギンブーツのシルクスクリーンの工程は大きく分けて4つある。
1.フレームを組み立てる
2.版を貼る
3.インクをのせる
4.刷る
この手順だけで、カバンやTシャツへ手軽にプリントができるのだ。
また、フレームを組み立てる際には、異なるサイズのフレームでも簡単に組み合わせができる、「SURIMACCA(スリマッカ)」というカラフルでおもちゃのブロックのようなアイテムを使うのも人気の秘訣だ。その魅力に気づいたすぎやまさんは、スロメで頻繁にシルクスクリーンの版を頼んでいた。
「シルクスクリーンって本当に楽しいんです。スロメさんはここのフロアで一番人気のお店でした、『柳ヶ瀬のスメロに行けばシルクスクリーンができる!』と、お客様に覚えられて、柳ヶ瀬のシルクスクリーンの土台を築いていました。」
その後スロメは、名古屋に移転する事となった。それを聞いたすぎやまさんは、これまでシルクスクリーンが生み出してきた、お客様や柳ヶ瀬への相乗効果を思い返していた。
「以前、スロメさんでシルクスクリーンを体験したお客様が、すごく楽しそうな様子だったことを思い出して無くなってしまうのが、寂しいと思いました。それに、柳ヶ瀬のこの場所にせっかくシルクスクリーンが根付いてきたのに…という惜しむ思い、私自身がまだシルクスクリーンをやり続けたいという思い、いろんな感情が押し寄せてきました。それで、私が柳ヶ瀬でシルクスクリーンを引き継ぐと決めたんです。」
引き継ぐと言っても、ゼロから新しく覚えるというわけでもなかった。なぜなら、本業がイラストレーターなので、データもすぐに作れたりと、やることに関連性があったからだ。さらに、スロメが移転を決める前から、すぎやまさんは少しお手伝いをしていて、そのときに操作を教えてもらっていたのだ。
すぎやまさんは、シルクスクリーンを引き継ぐタイミングで、お店の名前も変えたという。もともと「ペンギンブーツ」という名前だったが、「ペンギンブーツプラス」へ変更。
「スロメさんの思いを引き継ぎつつ、ペンギンブーツらしさも出すためにプラスをつけました。」
すぎやまさんは、ちょうどこの時期から「柳ヶ瀬面白いかも!」と思い始めたと話している。
③続けることが大事!「柳ヶ瀬面白いかも!」で柳ヶ瀬の未来を紡ぐ
生まれも育ちも岐阜市長良のすぎやまさん。子どもの頃から頻繁に柳ヶ瀬に遊びに来ていた。その後、時代の変遷とともに足を運ばなくなってしまったという。しかし、再び柳ヶ瀬に戻ってきた。
「一時期、『行くならやっぱり名古屋でしょ!』と柳ヶ瀬を使わないときもありました。でも戻ってみると、昔から残っているところもまだあって、それが嬉しかったんです。実際に柳ヶ瀬の中にいると、無くしたくない場所が沢山あるんです。ロイヤル劇場もそうですけど、商店街に映画館があるってすごく素敵だと思うんですよ。こんな街は他にはないと思っています。だから、若い人が『柳ヶ瀬って面白いかも!』って柳ヶ瀬を引き継いでくれたらいいなと思っています。」
すぎやまさんは、柳ヶ瀬でできるだけ長くペンギンブーツプラスを続けることが、結果的に柳ヶ瀬の力になると考えている。
「2017年に、お店で缶バッジを作った女の子がいたんです。今は成長して柳ヶ瀬の古着屋さんの店員になった彼女が、あるときお店に来て『ここで作った缶バッジをまだ持っています!』と言ってくれたことがあったんです。さらに彼女は、古着屋さんに来たお客様を連れて、『ペンギンブーツプラスこんなことできるんだよ』と説明していました。私はそれを聞いたとき、なんとも言えない気持ちになり、これからも続けていこう!まだまだ頑張ろう!と励まされました。」
子どものときにお店に来て、楽しかった体験をもったまま大人になり、またお店に帰ってくる、そこで「まだお店あるじゃん」となればこんな嬉しいことはないだろう。
「だから、続けるって大事なんだなと思いました。この商店街に昔からあるお店は、私たちが使わなかった間も、その人たちはここで頑張っていたんだなと思うと…。その方達をリスペクトしつつ、大事にしながら新しく変化していくのが一番いいと思いました。」
その一方で、高島屋営業終了など、柳ヶ瀬はこのところ激動を迎えている。しかし、ペンギンブーツプラスのお客様に聞くと、新しくオープンしたお店も多くありとても魅力的な街になっているという声も多く聞こえてくる。さまざまなお店が並ぶ柳ヶ瀬は常に進化を続けていくのだろうと感じた。
「他のお店でご飯を食べていた方が、『あそこのお店で紹介されて来ました』って、うちに来られたりするんです。私も新しいお店ができるとお客様に情報を伝えたりします。あとは、サンデービルヂングマーケットの企画もしている、柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社からの発注で、「やながせくん」という柳ヶ瀬非公認キャラのシルクスクリーン版も作りました。横のつながりを使って、柳ヶ瀬全体が盛り上がれば、自然に人が集まると思います。地道に取り組んで行こうと思っています。」
④「お金は必要だけど重要じゃない」迷ったら楽しい方へ!
すぎやまさんにお話を伺っていると、「面白い」「楽しい」という言葉が度々登場する。サンデービルヂングマーケットでの出店は人とのコミュニケーションが面白くて試した、お客様に直接物を販売することが楽しくてペンギンブーツを出店した、シルクスクリーンが楽しくてスロメから引き継ぐ、その一連の流れを経験して「柳ヶ瀬面白いかも!」と思い、更に活動を加速させている。
すぎやまさんは、これらの言葉を価値基準として行動しているように見えた。ここでは、すぎやまさんが日々どういったことを意識して行動しているのかを伺ってみた。
「イラストレーターとして大切にしている言葉は、『はい、喜んで!』です。この言葉には、とりあえず何でも受けますっていう意志が込められています。お店を続けていく上では、「お金は必要だけど重要じゃない」という映画のセリフでハッとして気づきを得ました。」
その映画は、ジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」という作品だ。タクシーを舞台に、ニューヨーク・ロサンゼルス・ヘルシンキ・ローマ・パリの5つの都市で、同時刻にタクシー内で起きる出来事を描くオムニバス映画だ。問題のセリフは、ニューヨーク編で出てくる。タクシーを降りるとき、乗客はわざと1ドル少なく渡すが、運転手はそれを数えずに受け取ろうとした。それを見ていた乗客が「ちゃんと数えろ。」と運転手に注意する場面だ。そのとき運転手は「お金は必要だけど重要じゃない」と乗客に応えるのだ。
すぎやまさんは当時、そのセリフを聞いてハッとしたという。
「お金は生きていくために必要だけど、それ以上はそんなに重要じゃないのかも。だから、お金のことで焦ったりしてしまいますが、そういう時はお金じゃなくて楽しいと思う方に行こう!と思った方が良いと、気付くことができました。」
それ以降、この価値基準で物事を決めるように心がけているそうだ。すぎやまさんの好奇心と行動力を垣間見ることができるエピソードだ。
⑤ペンギンブーツプラスでシルクスクリーンを体験してみよう!
ペンギンブーツプラスでは、お客様に体験していただくことを重視しているという。
「うちは印刷業者ではないので、例えば「100枚刷って欲しい。」というような依頼はご遠慮いただいています。一方で、100枚のTシャツをみんなで刷りに来られるという場合は歓迎します。つまり、みんなで体験するなら問題ありません。だから2、3人で来てチームプレイで刷る人も多いです。刷り上がりはそれぞれ個性的なものになるんですけど、それも楽しみの一つです。」
お客様の中には、通りすがりで来られて、子どもが描いた絵をその場で刷りたいという人もいるという。まさにワークショップの醍醐味といった感じだ。では、どんなお客様がペンギンブーツプラスに来られるのだろうか?
「シルクスクリーンを知らないけれど、お試しで作ってみたいという人が多いです。そんな初心者の人でも体験を通して、『こんなに簡単にしっかりできるんだ、自分で刷れるのって楽しい!』って楽しんでいただけます。それがうちの魅力です。」
すぎやまさんの活動は、店舗だけにとどまらず、最近はイベントにも積極的に参加している。イベント出店時は、小さい製版機を持っていって、その場で描いてすぐに作れるような体験をお客様に提供しているそうだ。
「イベントでやるときは、お子さんがメインです。お子さんが描いたものをその場でお子さん自身に刷っていただくと、お父さんやお母さんも楽しそうなんですよ。」
すぎやまさんの価値基準である、お客様の「楽しい」が垣間見られるエピソードだ。今後取り組みたい展望についてお話を伺ってみた。
「もう少し作れるものの範囲を広げたいですね。今お店でできる最大のシルクスクリーンのサイズはL版ですが、実は大版もあります。現状、大判は1週間の時間をもらっていますが、本当はその場ですぐにやりたいんです。だから、それができる場所を展開したいです。あとは、私の次にシルクスクリーンを続けてくれる若い人が出てきたら嬉しいです。シルクスクリーンが好き、やってみたいっていう学生さんが、週末だけでもバイトでやってもらえたらという想いがあります。」
スロメさんから引き継いだ柳ヶ瀬のシルクスクリーン、それをすぎやまさんから若い人に引き継ぐことで、柳ヶ瀬の未来を紡ぐことになるだろう。
「そのためにも、私が頑張って売上を上げようと思っています。」
柳ヶ瀬を舞台に未来を紡ぐ活動は今日も進行中だ。未来に賭けた人しか今日とは違う未来を手に入れることはできない。この機会にペンギンブーツプラスに訪れて、あなたも未来を紡ぐ活動に参加してみたらどうだろうか。シルクスクリーンを体験しにいくのもよいし、すぎやまさんと楽しくお話するのもおすすめ。一度足を運んでみれば、その魅力がわかるはずだ。