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岐阜市にある青木文子司法書士事務所をご存知だろうか。
債務整理、会社設立、相続、不動産登記など、さまざまな問題を扱っている。さらに青木さんは司法書士だけでなく、多彩な顔を持ち、いずれもプロとして活動している。型破りな青木 文子(あおき あやこ)さんの人生観についてうかがった。
- お子様2人を抱え勉強して司法書士へ
- 司法書士、占い師、ドラァグクイーンの共通項
- 「心が震えることにチャレンジ」
- 「人生を楽しめ」子どもたちに伝えている3つのこと
① お子様2人を抱え勉強して司法書士へ
全国の司法書士における女性の割合は、2022年時点で18.5%(4,234人)だという。5人に1人しかいないのだ。特にセンシティブな問題について女性に相談したい場合、青木文子司法書士事務所は心強い選択肢となる。
青木さんは2人目のお子様を出産した後、32歳で司法書士の勉強を始め、36歳で合格した。しかし大学は法学ではなく、民俗学を専攻していたという。なぜ30代になってから、司法書士を目指したのだろうか。
「2人目を出産した後、「このままだと路頭に迷うかもしれない」という状況になりました。どうしようと思いながら書いていたのが「モーニングノート」だったのです。」
モーニングノートとは、朝起きてすぐに自分の感情や思考をノートに書き出すワークのことだ。書籍「ずっとやりたかったことを、やりなさい。」の中で紹介されている。
「モーニングノートは、毎朝、自分の思っていることを正直に3ページ書くものです。下の子が1月の頭に生まれて「私は何を手にしたかったんだろう」というのを考えながら、4か月くらいモーニングノートを書きました。ネガティブなことでいっぱいでした。もうそのノートは燃やしてしまいましたね。」
ノートに4か月間、青木さんは自分の中に渦巻く黒い気持ちをたくさん書き綴った。そしてある結論に至る。
「いろいろ愚痴を書きまくって、最終的に出て来たのが『私、自由が欲しいんだ』ということでした。」
青木さんにとっての自由は、何だろうか。
「私にとっての自由は、行きたいところに行って、読みたい本を買って、会いたい人に会うことです。自由を得て、子どもたちを守るためには、経済力が必要です。私は今までの人生で、お金を稼ぐことから逃げてきました。だから、本気でお金を稼ぎに行こうと決めたんです。」
そして青木さんが狙いを定めた士業が司法書士だった。
「私は人よりちょっと勉強とか頭を使うのが好きなのと、人よりちょっと暑苦しい正義感があるので、士(さむらい)業かなと。男性と互角にやりたかったし。弁護士も考えたのですが、弁護士は受かってから司法修習生としての研修を受ける必要があります。司法書士なら資格取得後に即、独立できると思って、司法書士の勉強を始めました。」
そして青木さんは育児をしながら1日10時間勉強して、司法書士になった。
「死ぬほど勉強しました。最後まで受からないと思っていました。4年目は気が狂いそうでしたね。よく受かったと思います。」
青木さんは笑顔でそう話すが、血のにじむような苦労があったことは想像に難くない。
そんな青木さんのお子様は、2024年現在、23歳と20歳。2人とも塾にも英会話教室にも行かず、英語が話せないままオーストラリアの高校に入ったという。その後上のお子様はアメリカの大学、下のお子様はオーストラリアの大学にそれぞれ進学した。
そして青木さんは、お子様2人の学費をすべて払っている。
「自分でいうのもあれですが、子ども2人を海外の大学に出すのはすごいことですよ。いくら稼いでも、瞬時にゼロになります。でも彼らは楽しそうだし、私がやりたくてやっていますからね。やっぱり、人生1度しかないですから。」
②司法書士、占い師、ドラァグクイーンの共通項
経済力をつけるために司法書士になった青木さんだが、実際に活動してみると、すごく自分に合っていたそうだ。
「クライアントさんとお話しして、笑顔で帰ってくれるのを見て、私は人前で話すのがすごく好きなんだなと気づいたんです。」
そんな青木さんは、子どものころから「人」に興味があったという。もともと精神科医を目指し、受験勉強をしていた。しかし高校2年のとき「人間を知りたいなら、理系と文系の両方を修めなければいけないのではないか」と気づき、進路変更。早稲田大学の人間科学部へと進んだ。そこで青木さんは民俗学にハマる。
「お祭りとか、人が大きな木に手を合わせることとか、そういうのに心を動かされるんです。そのころから人の話をよく聞いていましたね。特に私のテーマは物語でしたから。」
大学卒業後は文具メーカーの企画営業として勤務し、結婚後は主婦として家庭に入った。その後勉強して司法書士になったのだ。
そんな青木さんは、いくつもの肩書を持っている。実はプロ並みの技術を持つメイクアップアーティストだ。そして占い師でもある。
「うちの司法書士事務所の裏メニューに、メイクと占いがあるんですよ。当時、なぜ占星術を学んだのかというと、「あなたはこの人生、何しに来たの?誰かのものさしで生きていいの?」といつも思っているからです。たとえば、岡本太郎みたいなアートの魂を持っている人が、つまらない顔をして別の仕事をしていたら「それでいいの?」と思いますよね。今の仕事を辞めろとは言わないけど、あなたの魂が求めているアートに触れる時間を増やしたらどう?って。今の時代、誰かのものさしで生きていたら崩壊しますからね。」
これだけでもめちゃくちゃ濃い人生なのだが、青木さんはさらに新しい世界に飛び込んだ。
「私は女性だけど、プロのドラァグクイーンもやっているんです。」
ドラァグクイーンは、ゲイのクラブパーティーなどで派手なメイクとゴージャスな女装でステージを彩るパフォーマーだ。長いドレスを引きずる(ドラァグ)姿が語源と言われている。青木さんの場合は女性ではあるが、派手なメイクをしてゴージャスなドレスを身にまとい、ステージに立つというわけだ。
「ひょんなことから、ドラァグクイーンの養成コースに入ることになって。息子たちは辞めてほしいと言っていますが、これはこれで面白いですね(笑)。」
民俗学、占い師、メイクアップアーティスト、そしてドラァグクイーン……いずれも一見バラバラに見えるが、実は共通点がある。それは人と話すこと、そして誰かの物語を知ることだ。
「私は誰かと一緒にいて、言葉を交わすのが、一番の学びだなと思っています。結局ね、運も含めて、全部人が運んでくるんですよね。」
そしてそれは、もちろん司法書士の仕事にもいえる。
「司法書士をしていて一番うれしいのが、物語を扱えることです。会社を作るときも「あなたはどのような物語を紡ぎたいんですか?」と思いながら仕事しますし、相続だって「この一族のストーリーがどのように着地できれば、皆が笑顔になるんだろう」と思いながら仕事しています。メイクも占いも、その人の物語を扱う仕事という意味では共通しています。誰と一緒に物語を生きたいのか、どのような物語を生きたいのか。物語は人が生きている理由だと思っています。」
ちなみに青木さんの肩書はまだまだたくさんある。興味のある方はぜひ青木さんのWebページを訪れて、プロフィールを読んでみてほしい。
③「心が震えることにチャレンジ」
青木さんに、今後の展望をうかがってみた。今の時点でこれだけアクティブに動かれている青木さんの、今後の展望はどのようなものだろう。
「私は誰かの物語を聞いて、自身の心が震えた物語を伝えることにモチベーションがあると最近気づきました。2023年には講談師の先生に弟子入りをしたんですよ。大阪の上方協会の旭堂南左衛門先生。講談がすごく好きなんです。」
司法書士、占い師、メイクアップアーティスト、ドラァグクイーン、そして講談師……青木さんの肩書がさらに増えそうだ。
「人って、心が震えるものがそれぞれ違うと思うんです。上の子は6年前の高2のときに「FIRE」という本を読んで『お母さん、僕に未成年証券口座を開いてください』って言ってきたんですよ。経済の授業が面白くて、株をやりたいから開いてくださいって言われました。」
青木さんは当時株は未経験だった。それにも関わらず、上の息子さんのために未成年証券口座を開き「いつか絶対返してよ」とまとまった額のお金を入金したのだ。
そして上の息子さんはそのまま経済の世界に進み、会計と経済の両方の学位を取得した。卒業後はニューヨークにある会計事務所の一つに就職するという。
「当時渡したお金は、今3倍にはなってるらしいです。彼に何が楽しいか聞いたら、お金の動きと世界の動きが連動しているのを目の当たりに見ることだって答えが帰って来ました。」
一方、下の息子さんは人道支援に興味があるそうだ。
「下の子は、困った人を見ると泣けてしまう人で、今は国際関係学部に通っていて、将来どうするかを聞いたら、国連でアフリカの難民キャンプで仕事がしたいと言っていますね。」
同じオーストラリアに留学した兄弟でも、進みたい道はまったく異なるのだ。
「心が震えることって、人それぞれ違うんですよね。魂の色合いも人それぞれ。人生は1回しかないから、心が震えることにチャレンジしてほしいですね。」
冒険しない生き方、怪我をしない生き方、誰も傷つけず、誰からも傷つけられない生き方。それは楽かもしれないが、一度きりの人生がそれで終わってしまっていいのだろうか。
「真面目に生きて、働いている人たちについて、あれこれ言うつもりはありません。でも、もし自分の中でやりたいことを抑えているなら、それはやった方がいいと思います。」
④ 「人生を楽しめ」子どもたちに伝えている3つのこと
最後に、青木さんが子どもたちに伝えていることを教えてもらった。
「お母さんがもし死んじゃっても、この3つを守ってくれたら君たちの人生はハッピーだからねと言っていることがあります。」
①人生の価値はネタの数、失敗は上ネタ。
「どういう人生だった?って聞いてみて『僕、大変だったんですよ。あんなこともあって、こんなこともあって……』という話を聞くと「うわ、この人上ネタだらけだな」って思います。だから子どもたちにも『人生の価値はネタの数だから、とにかくやらかしていけ!』と言っています。」
②迷ったらGO!
「2つめはすごくシンプルです。やるかやらないかで迷ったら、絶対やった方がいいんです。迷っているということは「辞めよう」とは思っていないということだから。」
③選択肢が2つあったら面白い方を取る
「保守とか保身とかリスク回避とか、いろいろあるとは思いますが、どの選択肢が面白いのかは、自分で知っているはずなんですよね。そして自分しか知らないんです。だから面白い方を取るようにと伝えています。この3つを守ったら、けっこう面白い人生になるから。立身出世とか、お金を稼ぐことが面白いなら思い切りやってみたらいいんです。もし違ってたら、また戻って来ればいい。私も32歳のとき「本気で自由を取りに行く」と決心してよかったと思っています。」
筆者も、そこそこのやらかし人生を送っている。ただ、青木さんと話していると自然と自分の話をしてしまう。そして、それを聞いた青木さんは「楽しい人生ですね」と受け入れてくれるのだ。
人生は一度しかない。頭ではそうわかっていても、実際に青木さんのように行動できる人はどれだけいるのだろう。「今は無理だから明日やろう、来年やろう、そのうちやろう」と自分に言い訳をして、年を重ねてしまってはいないだろうか。本当は誰もが自分の物語の主人公なのに、誰かの脇役に甘んじてはいないだろうか。
青木さんの人生観には、自分自身の物語を生きるためのヒントがたくさん詰まっている。青木さんの活動にこれからも注目したい。