本に並々ならぬ愛情をもつ店主がいる「カクカクブックス」を訪ねてみた。

 

 

TOM
サラ、誰の小説が好き?
SARA
私は、宮部みゆき推し!トムは?
TOM
僕はね、スラムダンク推し!「諦めたらそこで試合終了ですよ」のセリフが泣けてくるんだよなぁ〜
SARA
・・・それ、小説じゃなくて漫画・・・

 

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各務原市にある「カクカクブックス」をご存知だろうか。
店内の本はすべて、店主が厳選してオススメするものを中心に揃えた、こだわりの本屋だ。今回は、店主の尾関 幸治(おぜき こうじ)さんにお話をうかがった。

 

 

今回のツムギポイント!
  1. 祖父から孫へ引き継ぐ!木の香りに包まれた手作りの本屋
  2. 「今しかない!失敗してもいい!」本屋開業に賭けた尾関さんの挑戦
  3. 小さな本屋の大きな強み!地域のコミュニティスペース「カクカクブックス」
  4. 本が好きな仲間を増やしたい!本に触れる機会を増やすあくなき挑戦

 

①祖父から孫へ引き継ぐ!木の香りに包まれた手作りの本屋

 

「もともとこの場所は祖父が営んでいた八百屋があって、一時期私も住んでいました。思い出深い場所が空き家となったので、改装してカクカクブックスをオープンしました。」

 

カクカクブックスは、2022年11月3日にオープンした。店主の尾関さんは、以前から『自分の本屋を開業したい』という憧れを持っていた。そんなときに、ちょうど自身が職を離れており、さらにこの場所が空き家になるという偶然が重なり、開業を決意した。

 

カクカクブックスの外観は、八百屋時代からのトタンが時の流れを物語り、どこか懐かしい風情を醸し出す。一方で、綺麗に剪定された観葉植物と、真新しく堂々とした大きな木の入口が、優しく出迎えてくれる。この対照的な景色が、まるで時空を越えた風景の中にいるような不思議な感覚を味わわせてくれる。

 

 

 

店内は、丸い球体の間接照明が照らしているので、明るすぎず柔らかい雰囲気を演出する。本の表紙が見やすいように、あえて平置きにしている本が多い印象だ。

 

 

 

「普段あまり本を読まないお客様でも、表紙を見て、気兼ねなく気になる本を手に取っていただけるように心掛けています。」

 

尾関さんの工夫により、お客様は自分の世界にひたりながら、一冊一冊手に取って、お気に入りの本を探すことができる。

 

お店の改装は、『かがみはら暮らし委員会』の仲間の協力も得て、電気とガスと水道と入口の建具以外は、全て自分たちの手で行ったという。また、DIYが好きな尾関さんは、店内の什器を全て自分で手掛けている。新作ができる度に、店内の什器の入れ替えをして、店内の雰囲気を大切に守っているという。

 

こうした演出によって、店内は木のいい香りに包まれ、まるでオープンしたばかりのお店のように新鮮な体験ができる。

 

おじいさんから受け継いだこの場所で、各務原の仲間の協力を得ながら改装をして、憧れだった自分の本屋をオープンさせた。尾関さんの並々ならぬ愛情を感じる本屋、それがカクカクブックスである。

 

 

②「今しかない!失敗してもいい!」本屋開業に賭けた尾関さんの挑戦

 

尾関さんは、高校生のときに本を好きになった。最初は、村上春樹や村上龍の本から読みはじめた。その後すぐに本に魅了され、本屋に通うようになったという。

 

それ以来、尾関さんの心の中に、本屋への憧れが育まれていくことになる。高校卒業後、工場で働いていたが、本屋で働きたい想いが強くなる。尾関さんは、給料が下がってもよいと、大手書店へ転職して書店員となった。

 

書店員時代に東京などへの出張のタイミングがあり、個人の小さな本屋を巡る中で、本屋を開業することに憧れをもつ。しかし、都会だから小さい本屋でも経営が成り立つのだろうと、開業に躊躇して行動に移せずにいたという。

 

やがて、大手書店が閉鎖に追い込まれ、尾関さんに転機が訪れる。しかし、そのときは系列会社の営業職に就いていた。

 

「営業職として働いていた2年間は、ずっともやもやしていました。給料の安定を優先するなら会社員ですが、自分が望む生き方はそうではない。たとえ収入が減っても、自分がやりたいことをやった方が楽しいだろうから、その生き方を選ぼうと思ったんです。」

 

その想いがきっかけで、尾関さんは会社員を辞めた。退職後は、奥様が営んでいた雑貨屋『長月』を手伝いながら、お店の一角を本棚にして本の販売をするなど、スモールスタートを切った。

 

「岐阜は人口が多いとはいえないし、本だけで大きな利益は見込めないなど、本の販売を続けていく大変さを、肌で感じる経験ができました。しかし、岐阜での本屋の開業を諦められませんでした。」

 

2020年に長月が幕を閉じ、一時的に職を離れた尾関さんは、この機会をチャンスと捉える。おじいさんの空き家を活用すれば、店舗の家賃が掛からないことも、自分の中の追い風にして、一気に開業へ舵を切ることとなる。

 

「今しかない!失敗してもいい!とにかく一回やってみよう!という想いだけでした。」

 

開業当時、尾関さんは47歳。長く温めてきた本屋の夢が、時を超えて形になった瞬間だった。いくつになっても新しいことに挑戦する尾関さんの姿は、挑戦することに躊躇しがちな世の中に勇気を与えてくれる。

 

 

③小さな本屋の大きな強み!地域のコミュニティスペース「カクカクブックス」

 

本の販売を続けていくことは大変だと、スモールスタート時に経験した尾関さん。その経験を活かした、カクカクブックスの強みについてうかがった。尾関さんは、規模の小ささを挙げる。

 

「大型書店は、棚差し(背表紙だけが見える並べ方)された本が多いですが、私個人的には背表紙ばかりだと、本を選びづらいという印象があります。その点うちは在庫が少ない点も活かして、あえて本の表紙が見やすいように平置きをしています。表紙を見せることで、お客様は手にとって選びやすくなるわけです。だから、『小さい』『狭い』『在庫が少ない』がうちの強みなんです。」

 

カクカクブックスは、個人の本屋として、さまざまな取り組みを行っている。『シェア本棚』は、お店の本棚の一角に本が入る箱を置き、そこにお客様が所有する本を並べて販売するというサービスである。本を自主出版された方が利用するにも最適なサービスだ。

 

また、毎月開催される『本読む会』は、本を読む時間がないという声に応えた読書会だ。18時〜20時までは全員が私語は控え読書に集中し、その後30分間は参加者同士で読んだ本を紹介し合い、次回の開催日程も決めてもらうという、自由なスタイルを取っている。

 

お店に置いている本にも、こだわりが光る。大型書店の場合、人気の売れ筋の本が中心だが、カクカクブックスでは、全て尾関さんご夫婦が気になる本を中心にオススメする本が置かれている。

 

一般的な書籍から、ZINEやリトルプレスまで、ジャンルは幅広いが厳選された本が手に取って楽しめるように揃えている。

 

さまざまな取り組みで大型書店との差別化を図るカクカクブックスだが、個人の小さい本屋が存続するためには、イベント開催は欠かせないと尾関さんは言う。

 

「イベントをきっかけに、普段本屋にいらっしゃらない層のお客様に知っていただけて、最終的に本の購入につながることもあります。」

 

紙から電子書籍やネットメディアへの移行が進む中、本屋とイベント開催を掛け合わせて、さまざまな工夫と取り組みを行うカクカクブックス。単なる本屋ではなく、コミュニティスペースとして地域に根ざす存在だ。尾関さんの情熱と工夫によって、これからどんなカクカクブックスを創っていくのか楽しみだ。

 

 

※カクカクブックス様ご提供

 

 

④本が好きな仲間を増やしたい!本に触れる機会を増やすあくなき挑戦

 

尾関さんは、本屋を営む中で、お客様から「本屋を始めてくれてありがとう」と言われた事があるという。そのうえで、今後の展望についてうかがった。

 

「自分が気になる本や好きな本だけを並べて販売しているので、本が売れるたびにお客様の共感を得たように感じ、嬉しくなります。だから、『私もこの本が好きなんです』と、購入されるお客様に思わず声をかけちゃいます。その気持ちがある限りは、カクカクブックスを続けていきたい。」

 

最近の読書離れや電子書籍などの普及で、本屋を取り巻く環境は厳しくなっている。岐阜の本屋も例外なく減っていて、特に個人の本屋はほとんど見なくなっているという。

 

来店されるお客様は、本が好きな方が多く、そういう方が常連になる。個人の本屋が好きだからという理由で、遠くから来るお客様もいる。本がきっかけでなくてもいい。イベントきっかけでもいいから、本に触れる機会を作れればいい。そんな想いからさまざまな取り組みを行っていると話してくれた。

 

「7月まで行っていたイベントなのですが、陶器を扱っている会社さんとのポップアップで、陶器の器やお皿の販売と器を作るワークショップを行いました。このように、楽しそうなことや面白そうなことに今後も取り組んでいきます。」

 

心が折れない限り1日でも長く続けていきたいという想いのもと、尾関さんの創意工夫する未来が楽しみだ。

 

個人の小さなお店が好きな人、本屋を応援したい人、尾関さんとの会話を楽しみたい人。すべての岐阜の人にオススメできるカクカクブックス。一度訪れてみる価値は十分にある。

 

 

 

カクカクブックス

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