大人と子どものふれ合いの場をつくり地域を盛り上げる「焼肉根尾街道」を訪ねてみた。

TOM
焼き肉を食べに行こ!!やっぱりドリンクの注文も欠かせないよね〜
SARA
ドリンクチケットを使うと子どもたちが駄菓子をもらえる焼き肉屋さんがあるんだって。
TOM
え!?じゃあ、僕も貰えるかな!?チケットを買ってたくさん飲もう〜っと
SARA
・・・あなた何歳なのよ・・・飲み過ぎるとお肉も食べられなくなるわよ・・・

 

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本巣市糸貫にある「焼肉根尾街道」をご存知だろうか。
地元民に長く愛されている焼肉店で、常連客だった現店主が継承したお店だ。今回は店主の岩﨑 健輔(いわさき けんすけ)さんにお話をうかがった。

 

 

今回のツムギポイント!
  1. 周囲は大反対。常連客だった現店主が事業を引き継いで
  2. 未曾有のコロナ禍に突入して地元愛を再確認
  3. 子どもと大人がつながる不思議な駄菓子屋
  4. 今、子どもたちのためにできること
  5. 焼肉屋を頑張る原動力

 

①周囲は大反対。常連客だった現店主が事業を引き継いで

 

岐阜県本巣市にある「焼肉根尾街道」。この地に根づき、家族連れなど地域住民に長く愛されてきた焼肉店だ。現在の店主は2代目となる岩﨑さん。

 

元々は常連客だった岩﨑さんは、先代からお店を畳むと聞いたとき、次期店主に立候補したそうだ。当時の心境をうかがった。

 

「僕が継ぎたいと伝えたとき、先代には『やめておけ』と言われました。飲食店は大変ですし、当時はお店自体も下火でした。でも僕は小さい頃から「焼肉根尾街道」に通っていましたし、いずれは地元で何かをやりたいという想いが強かったんです。それが31歳のときでした。「チャレンジするなら今しかない」と思って、それまで務めていた会社を辞めて『僕に継がせてください!』と伝えました。」

 

身内での継承ではなく、常連客が事業を引き継ぐ。とても勇気のいることではなかったのだろうか。

 

「それは…そうでしたね。僕の妻にも反対されました。それなりにお給料をいただいていた前職とは異なり、飲食は安定していない部分もある。でもチャレンジするなら今だと思うと説得しました。」

 

元々の仕事は、飲食店とは全く違う業種。現在、人気となっている岩﨑さんのInstagramにも、飲食店の素人ということをあえて記している。

 

「実は前職は全く違う業種で、溶接などを担当していました。その後、出張の多い部署に異動となって地元密着で何かをやりたいという想いが強くなったんです。そのタイミングで先代から焼肉根尾街道を畳むと聞いて。」

 

小さいころから通っていたお店がなくなるかもしれないと聞き、2代目として立候補を決意。ただ、冒頭でも話してくれたように、周囲は反対の声ばかり。それでも、背中を押してくれる存在もあったと岩﨑さんは振り返る。

 

「当時はお客様にも反対されました。父も反対。でも母は『やりたいことならチャレンジすればいい』と言ってくれました。両親も昔、飲食店を経営していたので血筋なのかもしれませんが、反対していた父も妻も最終的には応援してくれるようになりました。」

 

こうして飲食店という未知の世界に足を踏み入れた岩﨑さん。お店を継ぐことを決め、先代が辞めるまでの期間はどのように過ごしたのだろうか。

 

「先代からは基礎的な事を教えてもらいました。最初の2ヶ月ぐらいは一緒に店頭に立ってくれていましたが、自分に名義が変わった後は『あとは任せた!』みたいな感じでしたね(笑)。そこから徐々に自分の思うところを変えていきました。アルコール類を増やして、メニューを変更・味付けも少し変えましたね。実際に経営をしてみて改善点を見つけていきました。元々の常連さんの中には離れていく方もいました。」

 

 

 

 

②未曾有のコロナ禍に突入して地元愛を再確認

 

先代から引き継いだ矢先、未曾有のコロナ禍に突入した。

 

「時短営業やお酒の提供もダメ。厳しい状況でお客様も来ない状況になりました。ただ、この時期に地元のことをいろいろと考えるようになったんです。当時はイベントが出来なくて子どもたちは運動会もお祭りもできませんでした。僕たちが昔経験したことが今の子どもたちはできないんだと思ったときに、何か自分にできることはないかと考えるようになりました。そこで、隣の喫茶店を改装して、昼は母がカラオケ喫茶。夜は姉がバーを切り盛りする形にして。近くにいとこが切り盛りする駄菓子屋も開きました。そんなふうに親族・親子で地元を盛り上げることにしたんです。最近では、日中にカラオケをして焼き肉を食べに来てくれる方もいますし、焼き肉を食べたあとにバーに行く方もいますね。」

 

徐々に客足も戻り、2代目として経営する『焼肉根尾街道』が地域に定着する中、新たにお店の強みになったものとは?

 

「ひとつは、お酒の種類です。それからお肉では、内蔵系。ここには凄くこだわりがあります。最近では「内蔵がうまい」と新しいお客様も来てくれるようになったほどです。それから、現在名物になっているのはタンですね。」

 

 

 

 

③子どもと大人がつながる不思議な駄菓子屋

 

焼肉根尾街道が軌道に乗り始め、新たな試みにも着手。それが、近所で開いているという駄菓子屋だ。

 

「近所の古民家にいとこが住んでいて、そこの物置を改装して駄菓子屋を開いています。コロナ禍で人と人との繋がりが薄れてきた時代です。その中で、繋がりを感じられる場所になったらいいなと思いました。子どもたちにとっては新鮮で、大人は懐かしい。そんな場所なんです。ただ、ここは普通の駄菓子屋ではないんですよ。」

 

普通の駄菓子屋、いわゆる子どもたちがお小遣いを握って通うお店ではないという駄菓子屋『つきの家』。岩﨑さんが投じた一考とは。

 

「地域の大人が駄菓子のチケット(つきチケット)を購入します。そのチケットは、1枚100円の10枚綴りチケットとして寄付される形なんです。駄菓子屋の壁にチケットが貼られていて、これを使って子どもたちが1日200円まで無料で駄菓子を買える仕組みを取り入れました。この取り組みは、本当にたくさんのメディアに取り上げてもらって。今では、平日でも子どもたちが100人くらい来るようになりました。チケットもあっという間になくなってしまうんです。」

 

嬉しそうに、そう話す岩﨑さん。少し変わった駄菓子屋を経営する思いは、どのようなものなのだろうか。

 

「切り盛りしているのはいとこなので、身内でこの一帯地域を盛り上げながら、子どもたちを見守って、育てていこうという想いがあります。それから、普段はなかなか繋がりがない大人と子どもの交流ができたらいいなという気持ちもあります。」

 

 

 

④今、子どもたちのためにできること

 

駄菓子を贈ることができる「つきチケット」は一口1000円。その対価は、子どもたちからのお礼の手紙と「焼肉根尾街道」のドリンク500円分(一口)だ。商工会などに相談しながらシステムをつくり、今や他店のロールモデルにもなっている。

 

「焼肉を食べに来たお客様がお釣りを置いていってくれたり、たくさん飲む方がドリンクチケットを買ってくれたり。駄菓子屋に通ってくる子どもの親御さんが、支援してくれるようなこともあります。メディアに出てからは、全国から、この取り組みを真似したいと視察される方もいて。全国的に広まれば、子どもや地域のことを思う大人が増えて、日本はもっと温かくなるんじゃないかなと思います。」

 

焼肉屋の店主を出発点に、地域貢献を進めている岩﨑さん。そのほかにも様々な取り組みを行っている。そのひとつが「GIFUもとす夢花火2023-未来へ繋ぐ希望の輪-」。1万人を集めた花火イベントだ。

 

「2023年のクリスマスイブに行った花火イベントです。協賛金をいただいて実施し、ステージイベントに加えてキッチンカーも出して。本当に大きなイベントになりました。クリスマスなので子どもたちに夢をプレゼントするというコンセプトで進めていきましたが、地域を盛り上げたいという大人も増えたらいいなと。欲張りな思いかもしれませんが、プレゼントをもらった子どもたちが大きくなった時に、次の世代の子どもたちに、またプレゼントしたいと思ってもらえるような循環ができたらうれしいですよね。」

 

発起人となった花火イベントも本格的で、実行委員として携わる。だが、すべてボランティアとしての参加だそうだ。

 

「焼肉屋なのに『なんだ、あいつ』と思われているかもしれません。でも脱サラして始めた仕事です。単なる焼肉屋で終わりたくないなという思いもあります。その中で実施した花火イベントに関しては、花火の免許を持っているお客様と『花火イベントをやりたいんだけど、どうかな〜』と話したことがきっかけでした。協力してくれそうな人に声をかけて実行委員をつくり、ミーティングを繰り返して。花火イベントは本格的なものになりましたが、全部協賛金で実施しています。公式サイトもしっかり作って、コンセプトも記す。その思いに協賛してくれる企業や個人が集まってくださった。駄菓子屋をはじめ、地域のことを思ってやってることを知ってくださる人が増えていることもあって、開催できています。」

 

 

 

 

⑤焼肉屋を頑張る原動力

 

地域のためという思いが、岩﨑さんの原動力のようだ。今後に向けて考えていることを、最後に聞いてみた。

 

「今後の展望としては、駄菓子屋での学習支援は考えています。夏休みだと、月に2、3回。子ども食堂も兼ねて。親御さんが仕事でいないなど、さまざまな状況下にいる子どもたちの居場所であったらと思うんです。それに、駄菓子屋を任せているいとこは、勉強も教えられますし、子どもたちと本気で向き合ってくれています。学校や親、友だちにも言えない悩みも話しやすいのかなと。そんな居場所でありたいですし、やっぱり、地域の子どもたちを見守りたい。それと同時に何かしたいと思う大人を増やしたいので、こうした活動は続けていきたいことです。」

 

時代が流れ、子どもたちを取り巻く環境も変化が続く。10〜15年ほど前は、自ずと地域の大人が子どもを見守る雰囲気があったが、今は、それも変化しつつある。

 

「近所の大人に怒られることが、僕の子ども時代にはありました。今はそういうことがない。そういうものが、もう一回生まれたらいいなと。駄菓子屋も、売上が多くあるわけではありません。でも、店長も含め、積極的に地域のために子どものためとやってくれています。だからこそ、僕はしっかりと本業を頑張って、地域を盛り上げるみんなが安心して活動できるようにしていきたい。駄菓子屋の活動もゆくゆくはNPO法人を設立して、活動の幅を広げていけるようにと考えています。」

 

『焼肉根尾街道』の店主となって、地域貢献の道を進む岩﨑さん。地域のために、子どもたちのためにと、思う心が人一倍強い。その思いも感じられる、地域に根づいた焼肉店。訪れる際には、ぜひドリンクチケットを買って、子どもたちとつながりを持ってみてはいかがだろうか。

 

 

 

 

焼肉根尾街道

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