子どもたちが未来を生きる力を育む「人と学ぶ場ふらっと」を訪ねてみた。

TOM
フリースクールっていいな。僕も子どものときにあったら通いたかったな。
SARA
そうね。今はいろいろな選択肢があっていいわね。
TOM
でもフリースクールって、友達が作れるのかちょっと心配かも。
SARA
「人と学ぶ場」って何を学ぶのかしら。一度聞いてみましょう。

 

この記事は約10分で読めます。

 

「人と学ぶ場ふらっと」をご存知だろうか。
元教師の夫婦が運営する教育関連事業だ。今回は代表の加藤 隆史(かとう たかし)さんに、「ふらっと」の考え方や、子どもたちへの想いについて伺った。

 

今回のツムギポイント!
  1. 「ふらっと」という名前に込められた意味
  2. 「目の前の困っている人を何とかしたい」
  3. 高校生と小学生が一緒にスポーツを楽しむ
  4. 大人がお膳立てせず、子どもの自主性を育む
  5. 大人会員「ふらっとファンクラブ」とは
  6. 「それもあるよね」と相手を受け止める

 

 

①「ふらっと」という名前に込められた意味

 

「人と学ぶ場ふらっと」には、高校生向けの「精華学園高等学校 岐阜校」、小中高生向けの「フリースクールふらっと」と「学び舎ふらっと」がある。不登校の子どもたちや、不登校とまではいかないけど現在の学校システムに馴染めない子どもたち、自分のやりたいを叶えて、楽しく生きたいと願う子どもたちに対して、個性を尊重し、それぞれのペースで学べる場を提供しているのだ。

 

まずは「人と学ぶ場ふらっと」という名前の由来についてたずねてみた。

 

「名前を「ふらっと」にしたのは、大きく3つの理由があります。

1.自分が通うなら言いやすい名前が良かったから
2.いつでもふらっと行ける場所にしたかったから
3.公平にしたかったから

学校に通えないことは、決して失敗ではありません。しかしここに来る子どもたちは「失敗してしまった」と感じている子が多いんです。それならここでやり直したらいいんじゃない?平らにしたらいいんじゃない?ということで「フラット」にしました。」

 

また「ふらっと」だけではなく「人と学ぶ場」と付いている理由も教えてくれた。

 

「人は、人と学ぶことでしか磨かれないと考えているからです。今はインターネットもAIも発達して、オンラインで勉強しやすくなりました。しかし人として大切なことは、人と関わることでしか学べません。人と関わる方法に関する書籍はたくさんありますし、ネットで調べればいくらでも出てきますが、知っているだけではできないことがあります。それを学ぶ場って大事だなと考えて付けました。」

 

 

②「目の前の困っている人を何とかしたい」

 

加藤さんはもともと先生だったそうだが、学校で勤務しているときに、子どもとの関わりで困ったことがあって、ふらっとを立ち上げたのだろうか?そう尋ねてみると、加藤さんは首を横に振った。

 

「全然違います。実は先生をやっていたとき、僕は学校に来られない子どものことを『この子たちはこれからどうするのだろう、かわいそうだな』と思っていました。 今思えば、とても上から目線ですよね。こども自身が不登校を選んだんだから、自分には関係ないとすら考えていたんです。」

 

意外な答えだ。ではなぜ教員を辞めたのだろうか。

 

「僕も妻も教員だったのですが、忙しくて自分の子どもと接する時間を取れませんでした。いくら他人の子どもを良くしても、自分の子と向き合う時間が持てないのはおかしくないかと考えたのです。妻と話し合った結果、妻が『自分はもう少し今の職場で頑張りたい』と言ったので、僕が辞めることにしました。」

 

加藤さんはその後、自分で通信制サポート校を始めた。最初は高校生だけを対象としていたが、サポート校を運営していた加藤さんは、あることに気づく。

 

「サポート校をしていたら、その高校に通いたい中学生から相談を受けるわけです。その子に『今はうちで何をしているの?』と聞いたら、何もしていないと言うわけですね。じゃあうちに来るかと聞いたら『行っていいの?』と聞かれたので、フリースクールを始めました。フリースクールのことは何もわからなかったのですが、目の前に困っている子がいたのがきっかけです。僕に何かできることはあるかな、これならできるんじゃないかということで、事業が増えていった感じですね。」

 

本巣市にある「お山のおうちふらっと」もそのひとつだ。

 

「今、子どもたちの遊び場がないんですよね。公園があっても、ボール遊び禁止だったりするんです。どこか良い場所がないかなと探していたら、ここを紹介してもらいました。ウッドデッキを皆で作ったり、壁を塗り替えたりして遊べる場所を作ったんです。特に崇高なビジョンがあるわけではないですが、目の前にいる人の困りごとを聞いたり、やりたいことを叶えるために、自然の中で様々な体験を提供しています。」

 

 

 

 

③子どもたちの「やってみたい」を放置しない

 

加藤さんに、「ふらっと」が届けたいターゲットについて質問したところ「楽しいを大切に生きていきたい人」という回答が返ってきた。「学校に行けなくて悩んでいる人」とかではない。これは例えば不登校の子どもに限らずということだろうか?

 

「そうです。「ふらっと」に来る子は不登校の子に限っていません。『ここにしか行けないから』ではなく、ここに行きたいと思える人が来られる場所にしたいと思っています。」

 

スクールにはたくさんの個性ある子が通っている。もちろんやりたいことや将来の夢も千差万別だろう。もし加藤さんには教えられないようなことを相談された場合はどうするのだろうか?

 

「できないことは、他の人にお願いしています。実際にその仕事をしているプロの世界に触れる方が、子どもたちにとってもいいですからね。この間も、実際に税理士の仕事をしている人に来てもらったんですよ。他にもWebサイトを作っている人に会ったり、ダンサーをしている人のスタジオに行ったりしています。僕にできない事は、僕のつながりの中で専門家の人を見つけて任せています。」

 

子どもの「これをやりたいけど、どうすればいいのかわからない」を放置しない、とても誠実な対応だ。

 

「もし一人でも「これをやりたい!」という子がいたら、そのために動きます。この間も野球をやったんですが、どうせやるなら面白い方がいいからと、電光掲示板に名前が出るようにしたんですよ。名前が出ると子ども達が『おーすごい!』って喜んでました。」

 

自分の名前が電光掲示板にパッと映し出されたら、野球が好きな子も、そこまで好きではない子も、めちゃくちゃテンションが上がりそうだ。まさに「楽しい」を大切にしているのが伝わってくる。

 

 

 

 

④大人がお膳立てせず、子どもの自主性を育む

 

子どもたちの「やってみたい」を大切にするのはとても素敵だが、準備する大人は大変ではないだろうか?

 

「全部こちらでお膳立てするわけではないですよ。「これをやりたい」って言われたらまず「どうやって実現するの?」と考えさせるようにしています。ヒントは与えますけどね。要は「助けて」ってヘルプを出させることがすごく大事だと思っています。」

 

もちろん、すべてがうまくいくわけではない。

 

「あるタレントに会いたいという夢を持っている高校生がいました。そこでホームページから連絡を取ってみたんですが「スケジュールが空かない」という理由で断られてしまったんです。でもその子は納得していました。自分の「やってみたい」という思いが放置されなかったからだと思います。」

 

野球についても、発案者に対し企画書を提出するようにうながしている。

 

「どこでやるのか、いつやるのか、何が必要なのか、どうやって行くのか、いくらかかるのかを全部書き出すようにいいました。」

 

その裏には、加藤さんのこんな想いがあった。

 

「努力しないまま、あれをしてほしい、これをしてほしいと要求する人間になってほしくないからです。やれないことに対して、社会に文句ばかり言う人間になってしまうと考えています。誰かにやってもらってばかりだと、不平不満ばかり言って、どうせ俺なんか、どうせ社会なんかと愚痴ばかりこぼすような人間になってしまうんです。」

 

決して答えを渡すだけの教育ではない。魚を釣ってあげるのではなく、魚の釣り方を教えるやり方なのだ。

 

「答えを渡すだけだと、面白くないですからね。子どもたちには、一生を生きていける力をつけてほしいです。だからこそ、ワクワクしながら行動を起こすことには大きな意味があります。「努力する」とか「頑張る」のではなく、ワクワクしながら取り組んでいけば、きっと続けられるし、なんの苦も無く自分のしたいことができるようになっていくと思っています。」

 

また、やりたいことを通すときには、誰かが嫌な思いをしていないかにも、目を向けてほしいと話す。

 

「自分のやりたいことを貫くのは素敵です。でも、それで誰かのやりたいことを潰してしまうのはよくないですよね。それだと単なるわがままになってしまいます。そういう事も知ってほしいなと思って声掛けしています。」

 

ただ勉強するだけではなく、人とふれあい、社会性も高めていける。まさに「人と学ぶ場」というわけだ。

 

 

 

⑤大人会員「ふらっとファンクラブ」とは

 

やはり学校で先生をしていた頃と、子どもたちとの接し方は変わっているのだろうか?

 

「全然違いますね。教員だった頃は、本当に偉そうだったなと思います。今も偉そうですが(笑)。以前は、とにかく自分が正しいと思っていました。言ったとおりにやってもらうのが、正解だと思っていたんです。」

 

それが「ふらっと」を始めたことで、どのように変化したのだろうか?

 

「今は『何で?どうしたいの?』と、子どもの話を聞くようになりました。学校の授業は、文部科学省が告示した教育指導要領に沿って進められます。しかし「ふらっと」では、学校の先生をしていた頃の知識では解決できないことが、たくさん起こるんです。ダンスをやりたいと言われても僕は専門家ではないですし、ウッドデッキの作り方なんてわかりません。プロの力をうまく借りた方がよいというのも、ふらっとを始めてから気づいたことです。」

 

 

 

 

加藤さんが今後「ふらっと」でやってみたいことについて尋ねてみた。

 

「「お山のおうちふらっと」を建て直して、もっとたくさんの人が来られる場所にしたいですね。ただ、それをするには数千万の費用がかかります。また、子どもたちが増えてきたので、送迎用の車両も必要です。」

 

「ふらっと」の課題は運営費の捻出だ。現在「ふらっと」ではファンクラブ会員を募集している。高校卒業以上の大人を対象としており、「竹」「松」「超松」の3パターンが用意されている。会費に応じて特典も用意されているという。

 

「1人で100万円より、1000円で1000人にしたい、それが目標ですね。」

 

また「ふらっと」には有志のボランティアの人たちがいる。彼らはファンクラブ会費を支払って、ボランティアをしている。なぜこのような形にしたのだろうか?

 

「僕が怖いなと思うのは、ボランティアという顔をして、自分のために来る人たちです。そうすると、割りを食うのは子どもたちです。そのような事例が多発したので「ボランティアを買ってください」というシステムにしました。」

 

 

 

 

⑥「それもあるよね」と相手を受け止める

 

最後にいつも経営者の方にうかがっている「座右の銘」だが、加藤さんの場合は、Webページに既に書いている。それが『それもあるよね』だ。どのような想いがあるのだろうか?

 

「昔の座右の銘は『継続は力なり』でした。親に一億回くらい言われた言葉です。でも今は『それもあるよね』です。たとえば昔の僕みたいに「学校に通えないのはかわいそう」と考える先生は、今でもまだまだいると思います。しかし、そうではないケースもたくさんあるんです。10÷5=2、みたいに答えがあることは学校で学べますが、世の中には答えがないことばかりなんですよね。」

 

世の中には、正解がひとつではないことの方がずっと多い、まずはそれを肯定しようというのが「それもあるよね」なのだ。

 

「たとえば僕のこの話を記事にすることについても、こうまとめれば正解だという答えがないですよね。他の人がまとめたら、まったく違う記事になるでしょう。でもそれはそれでいいと思います。それに対して『もっとこうすると良くなるよ』というのは言いますけどね。すごいねとか、あなたのことが好きという、相手を敬う気持ちが根底にあれば、そうやって一緒にやっていくことができると思います。でも批判ばかりしてくる人と、誰が付き合いたくなるでしょうか。僕は全てのことに対して「それもあるよね」だと思っています。」

 

相手を一人の人間として尊重し、認め合う。シンプルながら、実に深い言葉だ。

 

「一旦は、相手の言葉を受け止めます。でも「受け止める」と「受け入れる」は違います。たとえば保護者に「もっと勉強をさせてほしい」と言われれば、その意見は一旦は受け止めますが、その上で「他のフリースクールの方に行った方がいい」と伝えます。もちろんやろうと思ったら勉強することもできますよ。もともと教員ですし、その辺の人より教えるのは間違いなく上手なはずです。でも僕から「やれ」とは言いません。」

 

実はこの取材の途中にも保護者の方が見学にいらっしゃり、加藤さんが対応していた。そして勉強に関する質問を受けていたのだ。

 

「勉強させてほしいというニーズがあるのはわかります。ただ先ほどの見学でもそうですが、本人がどう思っているかが見えないですよね。親御さんだけが先走っている可能性があります。はたしてそれで本人は元気になるでしょうか? まずは本人が元気になることが先決なんです。」

 

もし自発的に勉強するとなったら、それはそれでいいということだろうか。

 

「もちろんです。いくらでも付き合います。東大に行きたいと言われたら、死ぬ気でやれと言います。僕にはそこまでの学力はないので教えられないですが、そのときは教えられそうな人を連れてきます。」

 

現在「ふらっと」では卒業生が子どもたちに個別で勉強を教えている。

 

「めちゃくちゃ勉強ができるんです、それに、僕のことも「たかしくん」と呼んでます(笑)。僕の方針をわかってくれている子たちです。パソコンにも強いので、パソコンも任せていますね。僕のことをわかっているので『どうすればいいですか?』という聞き方はせずに『僕はこう思っているけど、どう思う?』という聞き方をするんですよ。すごいですよね。」

 

そう言ったときの加藤さんの顔は、どこか誇らしそうだった。他人任せにせず、自分で考えて答えを出すという「ふらっと」の方針が、生きているのだ。

 

 

 

 

加藤さんが言う「それもあるよね」の精神は、一方的な価値観を押し付けるのではなく、多様な考え方や生き方を受け止める柔軟性を表している。社会は常に目まぐるしく変わり続けているが、この考え方のもとで育った子どもたちは、新しい状況や課題に適応し、変化をおそれず、しなやかに生きていけるだろう。

 

もし、周囲に学校になじめず悩んでいるお子さんがいたら、また大人の立場からふらっとを応援したいと考える方は、ぜひ「ふらっと」立ち寄ってみてほしい。

 

 

 

 

人と学ぶ場ふらっと

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