文字のみでリアルな絵を描く「MojiBa®アーティスト・浦上愛子」を訪ねてみた。

TOM
リアルなワンちゃんの絵だけど、よく見ると名前で描いてあるんだね
SARA
そうね。名前には愛着があるから、絵にしてもらえると嬉しいわね
TOM
僕も自分の名前で描いてもらおうかなぁ。富富富富富……
SARA
・・・トムって漢字だったの?・・・

 

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Moji Base Art®(通称:MojiBa®)をご存知だろうか? 文字を使って動物などを精緻に描くアートだ。
遠くから見ると絵に見えるが、近くに寄ると小さな文字の集合体で描かれている。このMojiBa®を手がけているのが、岐阜県大垣市を拠点に活動するアーティストの浦上 愛子(Aiko Uragami)さんだ。今回は愛子さんにMojiBa®や、自身がテーマとしている環境問題への想いを伺った。

 

 

 

今回のツムギポイント!
  1. アメリカの高校でアートの世界に触れる
  2. 短大での課題をきっかけに生まれた「MojiBa®」
  3. 育児と両立したいと考え、絵を仕事に
  4. お子さんの涙から生まれたウミガメの絵
  5. マイナスな出来事も学べばプラスに

 

 

①アメリカの高校でアートの世界に触れる

 

愛子さんは現在、「aikocoro」という屋号を掲げ、個人事業主として活動している。まずは屋号の由来について伺った。

 

「私の名前が”愛子”で、そこに”心”を合わせました。愛子+心で「愛心(aikocoro)」です。私は自分の名前が好きなので、屋号に自分の名前を入れたいと思いました。また私の絵や活動は「愛」をテーマとしたものが多くあります。なので、愛の輪を広げていこうという、愛の心を持って活動しようとこの名前にしました。響きも良いですし、それに小文字になると丸っこくなるんですよね。コロコロしていてかわいいなと思い、aikocoroにしました。」

 

ご自身のホームページには、愛子さんの活動や経歴が紹介されている。愛子さんは高校・短大とアメリカの学校に通っていたという。現在も日常会話は十分英語で話せるという。

 

「高校は美術科ではありませんでしたが、日本の学校と比べて芸術の授業に重きを置いている印象がありました。芸術に関する意識が高かったんです。アートの科目がいっぱいありました。もちろん数学など必修の教科もありましたが、それの単位さえとっていれば、自分が好きな教科をたくさん選べたんです。先生もすごく良い方ばかりで色々と教わりました。」

 

アメリカでアートと出会った愛子さん。最初は日本の学校に通っていたのだが、毎朝早起きして、遠くの学校に通うのが難しかったのだという。

 

「日本で高校に通っていた時は、嫌なやつかもしれませんが、この学校を続けたところで何になるんだろうと考えていました。」

 

そしてアメリカに渡った愛子さん。日本からアメリカの高校や短大に行くのは、かなり珍しいと感じたのだが、愛子さんいわく、”意外といる”のだという。

 

「ロスの学校に通っていたときに、日本人に会ったんです。話してみるとその子が実は岐阜の子だったんです。さらに話していくと『知らないと思うけど、私は揖斐の方の出身で…』『わかるよ!私も近くだよ!』みたいな(笑)。その子とはいまだに仲が良いですね。」

 

 

 

②短大での課題をきっかけに生まれた「MojiBa®」

 

短大でもアートを学んだ愛子さんだが、最初は仕事にするつもりがなかったという。

 

「アートはかなり狭き門というイメージでした。芸能人になるのと同じくらい、難しいと思っていたんです。それよりも、今を楽しもうという感じて生きてきました。」

 

そして、授業を通じてある課題に出会う。

 

「文字で絵を描く、という課題でした。ただ単に文字を書くのではなく、アルファベットを組み合わせて動物を描くという、グラフィック系の課題でした。」

 

今でこそ、素晴らしいアートを生み出している愛子さん。しかし最初から思い通りのものを描けたわけではなかった。

 

「当時、実家にチョコという愛犬がいたので、その子を描こうと思いました。ただ下手すぎて不細工になってしまったんです。本当はすごく可愛いのに、これじゃだめだと真剣に課題に取り組んでいたら、文字を使ってリアルなチョコを描けるようになったんです。」

 

MojiBa®誕生の瞬間だ。しかし、実は先生が望んでいた課題の方向性ではなかったという。

 

「求められてた結果ではなかったのですが課題を提出したところ、寛大な校風なこともあって、先生に『Hey!Nice!』と言ってもらえたんです。これ、すごいじゃん!って評価してもらえました。」

 

愛子さんは、最後の課題でもMoji Base Art®に取り組んだ。

 

「ファイナルの課題は、過去に出された課題の中から自由に選んで良いというものでした。なので、実家にもう一匹、レオという名前の犬を飼っていたので、チョコの時と同じように文字を使ってレオを描きました。そしたらまたリアルなレオが完成して、先生に『Hey!Nice!』と言ってもらえたんです。」

 

さらに先生は、こう言って愛子さんの背中を押した。

 

「あなただったら、この方法を使って何かできるかもしれないと言ってもらえました。ただ当時はそこまで考えていませんでした。そういうのは、他の人がやることだと思っていたんです。私では務まらないと思っていたんです。だから、ありがとうとお礼を言ってその場は終わりました。」

 

もし先生の理解がなく「課題通りにやれ」と突き返すようなタイプだったら、MojiBa®は生まれなかったのかもしれない。型にはめようとしない、自由でのびのびとした校風が、愛子さんのアートへの想いを育んだといえるだろう。

 

 

 

 

③育児と両立したいと考え、絵を仕事に

 

アメリカの短大を卒業した愛子さんは、本人いわく「遊牧民」のような生活を送っていたという。

 

「短大に行く前もアメリカだけでなく、あちこちに行っていました。20代はとにかくいろいろな仕事をしていました。お金がなかったので、日本で仕事をして、海外に行って戻ってくる生活をしていたんです。アートに限らず、いろいろな「裏側」を見るのが好きでした。世の中の表ではなくて、裏がどうなっているかに惹かれたんです。」

 

さすがアーティスト、目の付け所が非凡だ。

 

「表はこんなにきれいだけど、裏はどうなんだろうと知りたかったんです。華やかに見える世界も裏側は地味なことばかりだったりとか、どこに行っても裏側はドロドロだな、とか(笑)いつかは何かの役に立つだろうと思っていろんな仕事をしていました。リゾートバイトもよくしていました。派遣の仕事でマレーシアに行ったこともあります。」

 

思わず「すごい」と口にすると「全然すごくないですよ。どこにも長く所属できない人なだけですよ」と愛子さんは笑った。

 

お金が貯まったら、アメリカだけでなくマレーシアやハンガリーなど、さまざまな国を旅した。

 

「特に東南アジアは結構いろいろ行っていますね。ベトナムとかカンボジアとか。基本は暖かいところが好きなんです。寒いので冬は苦手ですね。冬が今すぐ終わればいいのにと思っています(笑)。」

 

一方で、アート活動も依頼があれば受けていたという。

 

「頼まれたら絵を描くけど、本格的には描いていませんでした。そういうのは、他の人がやることだと思っていました。アートを仕事にする自信がなかったんです。生活があるからアート一本は厳しいと感じていました。アートのお仕事を増やすためにホームページを作ってみたりはしましたが、昼間に仕事をして、帰宅して、夜に絵を描くという気力が弱かったですね。」

 

その後、愛子さんは30代前半で運命の人に出会い、結婚する。パートナーは日本の方で、英語は苦手。ご自宅では英語でお子さんに話しかけているという愛子さん。旦那様は愛子さんが話している内容をお子さんに教えてもらっているのだそう。家族で英語で会話していても、旦那様だけついていけないこともあるそうだ。

 

2人のお子さんを授かったあと、愛子さんにとってのターニングポイントが訪れる。

 

「上の子が2歳のときに、下の子が生まれました。その下の子が2歳になって、仕事を始めようかと考えるようになりました。ただ過去の自分を振り返って「今、この環境で時間が固定された仕事が自分にできるとはとても思えない」と感じたんです。朝、早起きして日本の高校に通うこともできませんでしたから。」

 

さらに愛子さんはこう考えた。

 

「仕事を始めたとしても、いつか自分ができないことを、子どものせいにしてしまうかもしれないと怖くなったんです。子どもは関係ないのに、自分で選んで仕事をしているのに『ママは仕事も家のこともやってるからしんどい』ってイライラして八つ当たりするは嫌だなと思いました。」

 

そして2021年、パートナーの後押しもあり、愛子さんは「やるなら今かな」と「aikocoro」を立ち上げたのだ。

 

「ずっと絵をやりたい、もういい加減やらないと、って本当はずっと思っていたんです。子どもと過ごす時間は確保したいので、今は無理のない範囲で絵を描いています。」

 

 

④お子さんの涙から生まれたウミガメの絵

 

愛子さんは、MojiBa®以外の絵もとても上手だ。しかし現在はMojiBa®に絞って活動している。

 

「あれもこれも描けます!というよりも、方向性を絞っている方が、相談する人もわかりやすいと考えました。どんな絵を描いていこうかと考えたときに、短大の頃の課題を思い出して、1度チャレンジしてみようとMojiBa®をメインにしたんです。」

 

aikocoroを始める前も「うちの子の名前で犬を描いてほしい」という依頼はあったと話してくれた。ニーズはもともとあったのだ。

 

「愛着があるものは、人それぞれ違います。私はワンちゃん推しなので、ワンちゃんを描いていましたが、愛車を描いてというニーズもありました。そのニーズに対して描けるなと感じたんです。さすがに難しすぎるものはお断りするかもしれませんが、今のところ、お断りしたものはないですね。描く方法を何とか考えています。」

 

意外にも、人物を描くのは苦手だという。

 

「実は授業でモデルを描いていたときは、『つまらないな、何が楽しいの?』と思っていました。でも、お客様の想いを込めたものなら描けるんです。例えばお母さんから子どものことを描いてほしいという依頼とか、お子さんからの『おばあちゃんにお礼が言いたいから、おばあちゃんを描いて欲しい』とかそういうものだと描けますね。」

 

個展を開くにあたり、愛子さんはちょっとした壁にぶち当たる。

 

「これまでは人のワンちゃんの絵ばかり描いていたので、改めて自分が描きたいことは何だろうと考えました。個展をやるのなら、メッセージとして伝えたいことがほしかったんです。自分が好きなことを改めて考えました。私は動物も好きで、自然も好き。そこで環境に関する絵を描いてみたら、そちらが注目されたんです。」

 

それは、地球の海を表現したウミガメの絵だ。背中にはたくさんのゴミが乗っており、亀の足には網のようなものが絡まっている。見ていると胸が押しつぶされそうになる。

 

「自宅の前に用水路があるのですが、そこに落ちているゴミを子どもが拾おうとしたんですね。私は『汚いから拾わなくてもいいよ』と言ったんです。そしたら子どもが『でも、亀が死んじゃうじゃん』って泣いたんです。」

 

お子様はYouTubeで、亀がゴミを食べてしまい苦しんでいる映像を見てしまったのだという。

 

「子どもに泣きながら怒られて、悪かったな、私が間違っていたなと感じました。」

 

愛子さんは、当時のお子様とのやり取りを思い出すと、今でも涙ぐんでしまうそうだ。

 

「普段はゴミを捨てるなと怒っているのに、ゴミを拾うなと言って、子どもを混乱させてしまっていました。母親目線だと、ばい菌とかも気になるのですが、確かにこのゴミが、川から海へと流れ着いてしまうかもしれない、自分も加害者の一人なのだと気づいたんです。」

 

最初は亀の悲痛な叫びを文字にして絵を描いていたが、最近は絵を見た人に考えさせるきっかけをつくりたいと、クイズのようにしているという。

 

「最初は動物の苦しさを表現していたんですが、最近は、楽しみながら『そういうことか!』と気づいてもらえるようなものにしています。環境について調べることで、自分の生活も変わってきました。今ではその変化も楽しんでいます。」

 

 

 

 

⑤マイナスな出来事も学べばプラスに

 

ウミガメの絵をきっかけに、企業からの引き合いが増えたと話してくれた。

 

「お世話になった取引先に絵を贈呈したい」「会社のビジョンや理念を載せた絵を描いてほしい」というような依頼があるのだそうだ。

 

個人の依頼と企業の依頼、どちらが大変なのだろうか?

 

「個人の方からの依頼は『ワンちゃんを描いてほしい』など大方決まっています。企業の場合はデザインを考えて、メッセージをつけるなどのやり取りが多く、同じ1枚の絵でも時間がかかります。会社に所属した経験が少なかったので、特に最初は大変でした。」

 

依頼の中には、ひどい内容のものもあったという。

 

「お金は払いたくないけど絵だけ描いて、みたいな依頼もありました。いいように使われてしまって、後からそういうことだったのか…と気づく、みたいな。何で私は信じてしまったんだろう、いい加減学べよと、自分の不甲斐なさに落ち込みました。その中でも、よい人たちに恵まれたり、夫にも支えてもらって色々と教えてもらいながら前に進んでいます。」

 

愛子さんに、今後の展望を伺ってみた。

 

「個展を開きたいですね。岐阜だけでなく、名古屋でも開いてみたいです。もっと自分の活動を知ってもらいたいと考えています。ただ、子どもとの時間を確保しようと思うと、個展の準備が難しくて。2023年はできなかったんですね。上の子が小学校、下の子が保育園でそれぞれ別のところに違っていたので、時間の調整が中々できなかったんです。今年は気合を入れて、絵を描いていきたいですね。」

 

愛子さんはいつも「ポジティブ」を心がけている。

 

「全ての出来事には、理由があると考えています。一見マイナスに思えることの中でも、学べることはあるんです、なので結果的には全てプラスなんですよね。子どもにも、ポジティブに生きなさいと伝えています。」

 

確かに愛子さんは、ポジティブを体現している人だ、大変なことがあっても、そこから学びそれをプラスにとらえて絵を描き続けている。

 

あなたにもきっと、大切にしている言葉や、愛着がある名前があるはずだ。ぜひaikocoroさんに相談して、素敵なアートにしてもらうのはいかがだろうか。

 

 

 

 

 

 

aikocoro

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