この記事は約8分で読めます。
岐阜市にあるGARAMPをご存知だろうか。キャンプ・アウトドアのヴィンテージや雑貨や古着・植物を販売しているお店だ。オーナーの貝岐 健志(かいはみ たけし)さんにお話を伺った。
- 日本一周でキャンプの楽しさに目覚める
- ヴィンテージコインでオリジナルリングづくり
- 東京・福岡にも進出した「COIN LUCK」
- 「報われない努力はあっても無駄な努力はない」
①日本一周をきっかけにキャンプの楽しさに目覚める
GARAMPは、キャンプ用品に特化したヴィンテージショップだ。かなり珍しいお店で、少なくとも岐阜では調べても他に出てこない。
店内には、冬でも暖かそうな古着や、癒やされそうな植物、そしてヴィンテージの食器やバスケットなどが並ぶ。バスケットには外国の町並みがカラフルにペイントされており、ひとつひとつ違った雰囲気がある。近場でピクニックするときも、このバスケットをひとつ持っていくだけで、物語の登場人物になったかのような、特別な時間を過ごせそうだ。
店名の「GARAMP」は、GARAGE・CAMP・LAMPの3つのワードを組み合わせた造語だ。ランプのように暖かい、大人の秘密基地・サードプレイスとなることを願ってオーナーの貝岐さんが名付けた。実際店舗奥には、コーヒー・お酒のいただけるカウンターがあり、まさに「大人のための秘密基地」だ。
大学進学を機に岐阜に来た貝岐さん。大学在学中に起業し、雑貨屋を開いていた。2店舗を経営していたが、失敗してしまう。
「特にやりたいことがあったわけではなく、何となく『おしゃれそうだしやってみようかな』という理由で雑貨屋を始めたんです。でも、土地の値段も高かったし、勉強不足だったこともあって2店舗ともつぶれてしまいました。その後はバーテンやバリスタの仕事をして、生活費を稼いでいる状況でしたね。」
そんな貝岐さんは、2019年からバイクで日本一周を始める。
「当時働いていたバーに、日本一周の途中だという人がお客様として来たんです。その人の話を聞いているうちに『いいな、自分もやってみたいな』と思ってチャレンジしました。」
そこからキャンプにはまり、SNSやYouTubeでキャンプ系の動画を発信。好きが高じて、キャンプ用品やアウトドアのヴィンテージショップをオープンするに至る。
GARAMPがオープンしたのは2021年12月25日のクリスマスだ。当時はコロナ真っ只中で、外出制限もあり、まったく先が見えない状態だった。そのような中でお店を開くことに、不安はなかったのだろうか?
「むしろ店をオープンしたのはコロナがきっかけだったんですよ。当時はキャンプブームが起きましたからね。」
新型コロナウイルス感染症の拡大により、屋内での活動が制限されたことから、屋外での活動への関心が高まった。そこで自然の綺麗な空気の中で、他の人との距離を保ちながら楽しめるキャンプに注目が集まった。その需要にピタッとはまったのが、GARAMPだったというわけだ。
②ヴィンテージコインでオリジナルリングづくり
GARAMPではヴィンテージコインを使ったオリジナルリングづくりのワークショップを開いている。「COIN LUCK」という名前で別事業にしたそうだ。
ヴィンテージコインとは、数十年前、あるいは数百年前実際に流通していた貨幣だ。それぞれのコインには、発行された時代や国によって異なる歴史的背景や文化が刻み込まれている。このコインは誰が持ち、どのような場面で使われていたのだろうかと、想像力を膨らませる楽しみがある。
ヴィンテージコインは形状やデザインも多種多様で、肖像画、紋章、文字などがさまざまなレイアウトで描かれている。それを使って、世界に一つだけの個性的なリングを作れるのだ。お店の口コミにあったが、まさに「宝探し」の気分を味わえる。
日常でも、小銭を出そうとして自分の誕生年と同じ硬貨を見つけると「おっ!?」とちょっと嬉しい気持ちにならないだろうか。あの感覚をいつでも楽しめるというわけだ。貝岐さんは、どのようにしてこのアイディアをひらめいたのだろうか?
「ひらめいたきっかけは、ヴィンテージランタンでした。」
ランタンとは、炎や電球を保護する透明な囲いを備えたランプのこと。店名「GARAMP」の由来にもなっている。手入れして磨けば現代でも半永久的に使える。製造中止になったモデルや希少なモデルが多いため、コレクション性が高い。
特に人気なのが、コールマンのヴィンテージランタンだ。製造年・製造月がわかるため、自分の生まれ月のヴィンテージランタンを買い求めるファンも多い。
「コールマンのヴィンテージランタンは、1960年に製造されたものなら「60」と刻んであります。その年のその月に作られたものがバースデーランタンとして流行っていたんです。ただ、若い子だと、そういうものがなくて、ヴィンテージではなくなってしまうんですよね。僕だったら93年生まれなんですが、93年のかっこいいヴィンテージランタンはないんです。その代わりになるものを探して見つけたのが、ヴィンテージコインだったんです。」
ヴィンテージコインであれば、ヴィンテージランタンよりも自分の誕生年と同じものを見つけやすくなり、かつ若い子でも手が届きやすい価格になるというわけだ。費用は6,500円〜と特に若い人にはうれしい価格設定だ。中学生から参加可能で、想定よりも若いお客さんが多く訪れるという。また、実際に取材中にも若い女性客がリング作りに訪れていた。作業時間は1時間ほどとかなりお手軽だ。店舗にいた店長に「あっという間にできますね」と話すと「今日は僕が長話ししちゃいましたけど、もっと早く終わる場合もありますよ」との事だった。金額的にも時間的にもスグに始められるから嬉しいところだ。
コインは世界50カ国から集めた1万種類の中から、自分が「これだ!」と思えるものを選べる。ヴィンテージコインを扱うショップは増えてきているが、これだけの品揃えのお店はなかなかない。もともとヴィンテージショップをやっていたからこその強みといえるだろう。
③東京・福岡にも進出した「COIN LUCK」
2022年に事業を開始した、ヴィンテージコインを使ったワークショップの「COIN LUCK」だが、2024年2月時点で既に東京や福岡にも進出している。岐阜は社員1名とアルバイト2名、東京は社員3名アルバイト1名、福岡は社員2名アルバイト1名が在籍。雇用も生み出しているのだ。
順調な「COIN LUCK」だが、貝岐さんは単なる思いつきとノリで事業を進めているわけではない。なんとアメリカの先生からコインについて学んでいるのだ。
「最初は日本国内で情報を探したのですが、全然ありませんでした。そこでヴィンテージコインの本場であるアメリカで情報を探し、先生に直接電話したんです。」
ちなみに英語は喋れないそうだ。大学時代に起業したり、バイクで日本一周したりと、とにかく行動力がすごい。
COIN LUCKは今後、東京・福岡以外の出店予定はあるのだろうか?
「はい。多店舗展開は、夢とか展望のような大げさなものではなく、普通のタスクというイメージです。やることリストみたいな感じですね。札幌店は今年の3月にオープンしますし、首都圏には一通り出店したいと考えています。物件のめぐり合わせ次第ですね。沖縄でも出店を考えています。」
お店の求人は、髪型・服装自由、さらにタトゥーまでOKだという。タトゥーがOKというのはまだまだ珍しいのではないだろうか。オーナーの貝岐さんがとにかく重視しているのは人間性だ。
「うちはお客様と話す機会が多いので、ワークショップで話したら、良い子だとわかっていただけると思います。面接では、話してみたときの印象を重視します。タトゥーや赤髪の店員もいますが、悪い評価は1度も聞いていません。東京はもう完全に自走しています。福岡ももうすぐです。唯一困っていることは、僕の雑務が多いことぐらいです(笑)。」
従業員のうち、1人が出産で引っ越したものの、それ以外はまだ誰も退職していないという。
「従業員がうちで働くことで、もっと幸せになってくれたらいいなと考えています。休日も取りやすいようにしています。楽しく働けて、お給料ももらえて、ホワイトという状態を目指しているんです。」
実際にオーナーの貝岐さんと話していると、なぜだかこちらもワクワクしてくる。きっと貝岐さんの「楽しいこと」をしたい気持ちが周りにも自ずと伝染するのだろう。この環境で働くスタッフは楽しくないわけがないと、勝手ながらに感じてしまうほどだった。
従業員の事で実現したいことは、まだ全ての従業員が1か所に集まったことはなく、いつか皆で社員旅行をしたいと考えているのだそうだ。
④「報われない努力はあっても無駄な努力はない」
お店の今後の展望は「COIN LUCKの全国展開」だが、貝岐さんの今後の夢は何だろうか?
「世界一周です。実は日本一周の後、世界一周に行こうとしていました。しかしコロナ禍になり、中断してしまったんです。今、こうやって仕事をしているのは、コロナのおかげと言えるかもしれません。コロナが来たことで、本気で商売をしようと腹をくくれたからです。」
今はコロナが収束しているが、やはり世界一周に行きたいという気持ちはあるのだろうか?
「はい。今も、世界一周に行きたいという欲望と葛藤しています。ただこの仕事はスピード感が大事なので、先にお店を展開して、お店を任せられる人を見つけて、その後でもいいかなと考えています。世界一周は完全に個人の目標ですが、仕事にもつながる目標です。常に世界を見据えています。」
貝岐さんの溢れんばかりのバイタリティはどこから来るのだろうか?
「好奇心です。単純に知らないことを無くしたいという気持ちがあります。シンプルに新しいことが好きなんです。あとは飽き性なんですよね。僕は飽き性をポジティブにとらえています。現状維持ではなく、常に進歩できるからです。」
好奇心旺盛な貝岐さん。ヴィンテージコインのワークショップが当たったが、そこで満足せず常に新しい商売のことを考えている。
「基本的にビジネスって、良いサービスが広まると真似をされてしまいますよね。なのでしっかり準備して、一気に全店舗で同時スタートできるくらい完成させてからやりたいと考えています。」
最後に好きな言葉として、学生時代に言われた「報われない努力はあるけど、無駄になる努力はない」という言葉を挙げていただいた。
「世の中って、がんばっても報われないことって多いですよね。でもその努力は決して無駄にはならないと、僕はいつも思っています。」
一度はお店を閉店させてしまった経験がある貝岐さん。しかし、そこであきらめなかったからこそ、経験を無駄にせず、新しいお店を成功させたといえるだろう。
「意識しているのは 「先に与える」ということです。ギブアンドテイクのギブをひたすらにしています。その方がうまくいくことが多いと実感しています。事業でも、こちらから先に与えた方が返ってきますからね。」
GARAMPとCOIN LUCKが届けたいターゲットは「もっとハッピーに、豊かになりたい人」だという。「COIN LUCK」の「LUCK」にもその想いが込められている。
モダンなモノトーンの家具や小物で統一された、シンプルな暮らしも便利でオシャレかもしれない。しかしヴィンテージ雑貨には、年数を重ねることで生まれる自然な摩耗や風合いがある。現代の人たちがどこかに置き忘れてしまった、当時の空気感や温かみがそこに宿っている。ひとつ手元にあるだけで、暮らしにパッと彩りを添え、幸せで豊かな気もちにさせてくれるだろう。
お気に入りのヴィンテージ雑貨やヴィンテージコインを探しに、大人の秘密基地「GARAMP」を訪れてみてはいかがだろうか。