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羽島郡笠松町にある「きもの睦月」をご存知だろうか。
もともと着物業界にいたわけではないが、布が好きだったことや趣味として染織をなさっていたことから”きもの”のお店を開業した、横山さんのお店だ。本日はきもの睦月の横山てる美(よこやま てるみ)さんにお話を伺った。
- お店を始めた理由
- 趣味としてのスタート
- 着方は変化する
- 恩師との出会い
- 今後の展望は?
①お店を始めた理由
まずは横山さんにお店の名前の由来について尋ねてみた。
「名前の由来は、睦月の睦というのが、人が睦み合う(むつみあう)っていうみんなが仲良くするというイメージが好きだったというのと、睦月は1月の持つ始まりという意味があるんです。二つの意味を合わせてつけた名前なんです。」
人同士のつながり、またそれのスタート地点になるようなお店になるようにと、きもの睦月としたそうだ。これは人を大切にしている横山さんの人柄がまさに表れているようだ。
「皆さん着物に興味はあっても踏み入れられないというか、やっぱり着物というと格式高い印象をお持ちなる方が多いようなんです。なんというか日本の文化ではあるんですが少し距離を感じてしまうような、そう感じていたので、着物のことを何でも気楽に聞けるような場所があったらいいなと思って、私はこのお店を始めたんですよね。」
と教えてくれた。誰しも着物に対して魅力を感じてはいるが、踏み込みにくいという現状に対して気軽に聞けるというのはありがたいことだと感じた。きもの睦月ではその人に合ったお着物の提案までしてくれるので、着物に興味を持っているが踏み出しにくいという方は、是非とも一度訪れたい場所だ。
②趣味としてのスタート
着物というと少し硬いイメージがあるが実際はどうなのだろうか。横山さんはどのようにして着物と出会ったのか聞いてみた。
「今は古い着物に価値が出ているので、あまりリサイクルショップには売っていないんですけど、昔はリサイクルショップにかすりの着物がそんなに高くない値段で買えたんです。なので古い着物を買ってきて、ほどいて洗って小物を作ったり、自分で洋服に作り直したりしてました。本当にそういった布にはずっと親しんできたんですよね。その延長線上に着物っていうのがあって、リサイクルショップとかいろんなところで買ってきた着物をほどいてやってたんですけど、でも着られるものは着てあげた方がいいよねって思うようになって、それから着付け教室に習いに行ったりして着れるようになりました。」
娘さんが小さかった頃にご縁があってお世話になっていたお店では、自分で選んだ布で洋服を作ってもらえた。そこから布に興味を持ち、また“織る”や“染める”にも関心を持つようになったという。全ては好きから始まり、もっともっとと進んでいった先にあったのが着物だったという。着物には大層なイメージがあるが、横山さんご自身が楽しく着れると感じたのがきっかけだそうだ。
実際お店にある生地は一つ一つがとても綺麗で、横山さんが大切にしているのが伝わってくる品ばかりだった。また身近に感じてもらうためにブログなどで発信していくうちに、呉服屋など繋がりが増えていったという。自身も着る側、作る側を経験したことがある横山さん。着物職人に対して尊敬の念を持っているのだと話してくれた。
「着物職人の方のこだわりや想いをお届けしたいし、ただ商品としてお勧めするんじゃなくて、そういうことも含めて全てお伝えしていきたいとすごく思っているんですよね。」
こうして着物と出会った横山さんだが、今は着付教室、和装の販売、和装の制作この3つが主なお仕事となっている。ただこの中の一つである和装の制作は珍しいと感じた。また、横山さんが来ていただいたお客様と縁がつながる事がとても嬉しいのだと話してくれた。この話を聞きとても素敵なことだと感じた。やはり横山さんの着物を通して人が睦み合えるようにとの思いを大切にしているのだと感じた。
③着方は変化する
着物を着ることに対してとてもわかりやすい例えをしてくれた。
「コスプレみたいな。自分と違う人になるために着物を着るのではなくて、自分をより自分らしく表現する方法として着物を着る。」
現代日本では、着物は入学式や卒業式など式典で見かけることが多い。しかし横山さんの着物に対する見方は違う。着物はおしゃれ着だ。つまり着物こそが自分を表現できるものだという。皆さんが服でおしゃれをしたり、自分を表現するのと同じ感覚だろう。それの一つの選択肢としての着物というわけだ。
横山さんはもともと着物を見てもどこかしっくり来ていなかったのだと言う。そこで転機となったのが東京の森田空美(もりた あけみ)先生との出会いだ。そこで先生の着方が好きになり習いに行き、最終的には学んだことを人に伝える教室をするようになったという。また筆者が驚いた話が、他の人の着方を横山さんが決めないということ。和装のイメージとして着方のルールや正解があるものだと筆者は思っていたからだ。
「いろんな着方があるんですよね。皆さんそれぞれ着方が違っていいと思ってるんです。私はこの着方が正解とかではなく、自分の感性でいいと思っているんです、着方はそれぞれでいいと思ってるんですよね。お洋服ってデザインがあって、それを選んで着ることで自分を表現できるじゃないですか、だけど着物って同じ形だから着方で皆さんそれぞれ自分を表現するんです。自分の感性で着ることによって自分のデザインを作っていくみたいな感覚です。衿とか帯の位置とかそういう一つ一つがその人を表現していくんですよ。」
横山さんにとって好きなものはあるが、人それぞれ好きなものがあり、自分は自分の好きなものを人に伝えていきたいのだと教えてくれた。
④恩師との出会い
「森田先生の存在を知ったのは、私が着物を着られるようになって、まだお店を始める前に着物の取り合わせの本を見たときです。着物の雑誌や本っていっぱいあるんですよ。有名な雑誌もたくさんあるんですけど、その中の取り合わせや綺麗なモデルさんがいろんな着物を着てらっしゃるのを見ても、私はそんなにいいなとは思わなかったんですよね。ありきたりだと感じていたんです。だけど、森田先生の取り合わせの本を見たときにすごく素敵だと感じたんです。こういう着物着たい!ってすごく思ったんですよ。森田先生のコーディネートは本当に素敵だったんです。着物雑誌で見ていたようなコーディネートはこの着物にこの帯を合わせるの?と思っていたんですけど、先生の感性に近かったのか、この着物にはこの帯だよね。この生地だよねって。すごく同感できたんです本当に素敵って思ったんですよ。」
こうして着物の世界に魅了されていったと言う。その時感じた素敵な感覚を人に伝えたいというのが活力なのだろう。布が好きから始まり、先生や職人、お客様との出会いが素晴らしいもので、今ではそれが宝物だと感じているそうだ。
⑤今後の展望は?
横山さんに今後の展望について聞いてみた。
岐阜の方にもっと着物の良さや魅力を知っていただきたいと話してくれた。以前はお着物を着てのランチ会なども開いていたそうだが、再開を考えていると教えてくれた。その他にもワクワクするようなイベントを色々考えているのだと話してくれた。
最後に横山さんにとって着物とは何か聞いてみた。
「自分を一番自分らしく表現するものですかね。着物を着ることを通して自分を表現できると思っています。」
これは横山さんのスタイルを正確に表している。お仕事として着物を見ているというより本当に好きなものとして向き合っているから出た言葉であろう。何よりも自分がいいと思ったものを人に伝えたい、知ってほしいと考えている。 何よりの喜びが着物の取り合わせが良かったと言われることだと言う。これは自分の感性・師事をえた先生の感性を全肯定してくれたことの表れであるからだ。本当に嬉しそうに語ってくださった。娘さんの横山奈美(よこやま なみ)さんはアーティスト活動を行なっており、いつか一緒に活動している姿を見たいなと考えてしまった。大好きを共有したいから始めたお店、ご縁を大切にする横山さんの今後の活躍に目が離せないと感じた。