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岐阜市中鶉にある「Chat Noir(シャノワール)」をご存知だろうか。
オーナーシェフが1組のお客様の為に心を込めてもてなすフランス料理のお店だ。今回はオーナーシェフの岩田 千尋(いわた ちひろ)さんにお話を伺った。
- 黒猫のChat Noir
- フレンチの魅力に導かれて
- 3つのこだわりポイント
- 1日1組限定のお客様をおもてなし
- 料理とは、追求を続ける面白い世界
①黒猫のChat Noir
Chat Noirは”黒猫”という意味のフレンチレストラン。まずは岩田さんに店名の由来について質問した。
「フランス料理のお店なので、フランス語の名前を探しました。かっこいいフランス語のお店はいっぱいありますけど、僕は頭に残るわかりやすいワードがいいかなと考えました。シャノワールって覚えなくても黒猫って意味で、”猫のお店”って覚えてもらってもいいんです。」
黒猫のChat Noirは、料理の専門学校で和洋中製菓をすべて学んだオーナーシェフがおひとりで運営するフレンチレストランだ。ご卒業後、岩田さんは先輩のご紹介で、あるレストランに勤めたという。その経験を活かしてChat Noirをオープンさせたそうだ。
「勤めたお店は紹介で入りました。基本を大切にしているお店でしたので、料理の基礎をしっかりと学ばせていただきました。ある時から厨房を1人で任せてもらえる様になったんです。朝早くから仕込みを始めたりと全部1人でやりました。10年ぐらい1人で回したんです。いい勉強の場でしたね。」
ワンオペの経験を積んだ岩田さんはこの経験をもとにひとりでもお店を行うことはできそうだと考え、住宅兼店舗を建てることを決意したそうだ。
「実は僕のいとこが建設会社で働いているので、希望を全て伝えました、僕の理想通りの形を作ってもらえました。住宅兼店舗なので、極端な話ですが、夜が遅くなってもすぐに休めますし、朝は起きてすぐに仕込みを始められるんです。通勤する必要がないというのは、僕には合ってますね。」
お店のこだわりと住宅兼店舗のメリットを話してくれた。こうして念願のお店が完成したそうだ。
②フレンチの魅力に導かれて
お料理にもさまざまなジャンルがある中で、何故フレンチを選ばれたのだろう。
「洋食を食べるのが好きでした。特にパスタが本当に好きだったんです。当時洋食といえばフレンチの世の中だったので、先輩にアドバイスも受けて、フレンチを学びにいきました。学校に通うまではそんなに料理に詳しかったわけではなかったです。」
そうしてフレンチを学び始めた岩田さんは、フランス料理を食べた時のことを語ってくれた。
「すごくおいしい!と思ったというのが、第一印象ですね。それまでは、食べたことない味だったので、なんだこの料理は!っていう感じでした。」
格式高く高級なイメージがあるフランス料理。気になるけれど食べに行ったことはないという方も多いかもしれない。しかし、Chat Noirでは、岩田さんがお好きな猫のモチーフと組み合わせることで、格式張った雰囲気ではなくカジュアルな雰囲気を作り上げている。
「実は僕も高級店に行くのは苦手なんですよ。美味しいですが、正直疲れるんですよ。なので、猫みたいなレストランに似つかわしくないモチーフがいい感じに和らげてくれています。僕はアンティーク調の雰囲気がすごく好きだったので、ここは僕の好きを詰め込んだ店内になっているんです。」
お客様が来店しやすくお料理を楽しみやすい雰囲気は、岩田さんにとっても心地よいものだという。
「こういう雰囲気だと仕事場という感じが薄れて僕も気が楽なんです。ずっと仕事してると、今日はしんどいなって思う朝もあるじゃないですか。それで職場入ってもテンションを上げにくいんです。でもこういう雰囲気だと自分もお客様もリラックスして料理を楽しめると思うんです。」
自分にとって心地よい空間で、お客様により良いサービスをしたいという願いも話してくれた。
岩田さんの好きが詰まったこの店内空間は、Chat Noirの3つのこだわりポイントのうちのひとつだ。
③3つのこだわりポイント
「2つ目は、食器へのこだわりです。この店内に合うようにと考えて選んでいます。うちで使っている食器はあまりレストランが使う食器ではないんです。自分が欲しくて、探していたものをたまたま見つけて、販売会社さんに直接電話してお店で使いたいんだって相談したら、快く対応してくれたんです。」
食器選びへの熱意について話してくれた岩田さん。Chat Noirさんのテーブルに並んだ時のテイストを意識して選ばれているという。
「お客様から一番見える所なので、やはり気をつけていますね。美味しいとか、いい食材を使うとか、その辺はプロだったら当たり前なので。お店の雰囲気や使う食器とかはさらなるプラスの部分ですよね。」
3つ目は、オーナーの猫へのこだわりだ。
Chat Noirさんへ車で来店するお客様は、駐車場のチャーミングな肉球に注目することだろう。
店内にも猫のモチーフや写真、招き猫などが愛嬌たっぷりに並んでおり、フレンチに緊張されている方を和ませてくれることだろう。
④1日1組限定のお客様をおもてなし
「うちは他の店と比べて原価率がすごく高いんですよ。これはかなりの強みだと思っています。」
良質な食材に手間をかけ、本格フレンチをお手頃な価格で提供しているChat Noirは岩田さんの理念を大いに反映している。
「僕は、お金儲けのために仕事をしているんじゃないんです。本当に自分が好きでやっているので、お客様にどうしたら喜んでいただけるかを考えた結果が今なんです。従業員もいなくて僕だけのお店で、通勤もないので余計なコストがかからないんです。完全予約制にしているので、ご予約のお客様のために良質な食材を仕入れることができます。支払いも現金だけにしています。余計なものはとにかく省いて、なるべくお客様に還元できるようにと常に考えています。」
現在ランチは予約制で12名まで、ディナーは1日1組限定の形をとっている。
「待たせる時間があるのが嫌だなと思ったんです。せっかく記念日などでちょっと奮発して来店してくださっているので。売上より満足度を優先して、また来てもらえればその方が僕としても嬉しいので、ディナーは1組限定の予約制としています。」
さらにフレンチレストランならではのお客様のニーズを汲み取っている。
「こういうお店って、店員と話したいっていうお客様もいるんですよ。ディナー1組だけだったら、お話をしながら料理を提供できます。お客様の好みなんかもいろいろ聞けますし、いいことづくめなんです。僕は、このお客様は何が好きとか細かく書き留めたカルテみたいなものを作っています。だから会話の中で好みを聞いてみたり、一応苦手なものを把握したりします。」
お客様の好みをお店側が把握してくれているというお話に筆者はとても驚いた。
「ディナーに関しては、出した料理なども全部記録に残しています。次来店された時、基本的には同じものは出さないんです。この人はこれが好きだから毎回その食材は入れるなどと活かしています。来てくれる方に対して、嫌いなものは付け合わせ1つたりとも出したくないんです。それこそ2人で来ていて、お一人はお酒飲む、こちらの方は飲まないってなると、味付けも変えるんです。」
お客様お一人ずつの好みを分析して食事を楽しんでいただくためのスタイルについて紹介してくれた。できることは全部やりたいと語る岩田さん。
「記念日に欠かさず来てくれるお客様とか、嬉しいじゃないですか。自分が評価されて、大切な日に使う場所として選んでくれるってことは、本当に嬉しいことなんです。できることは全部やってあげたいと思っています。」
⑤料理とは、追求を続ける面白い世界
厳しい修行を積まれる料理人さんの世界。岩田さんも朝早くから日にちが変わるまで厨房で働くお忙しい時期を経験されているが、それでも料理の世界から離れなかった理由について話してくれた。
「実際にやってみて、体力的に大変ですが、すごく面白い世界だと思いました。料理を考えて仕入れて仕込みをして作ってお客様に出して反応も直に見れて報酬をいただける。自分が頑張った結果がダイレクトに見れるんです。きっと他の仕事では味わえないと思うんです。」
例えば商品開発の仕事をする場合には、多くの人が工程を少しずつ分担し、数ヶ月・数年をかけることになるはずだ。そうしたスパンが短い分、お料理は試行錯誤が無限に行える世界だという。
「答えがないんですよねこの世界って。今日この料理を出しても後々見ると何でこれを出したんだろうって思うんですよ。例えば何年か前の料理を見るとその日は100点だと思った料理も、1年後見たら80点じゃない?っていう世界なので、追求し続けています。」
努力家の一面を見せてくれた岩田さん。
その日その日に全力を出し追求を重ねるからこそ、過去の自分が色褪せて見えることもあるのだろう。日々進化し続ける岩田さんが1組のお客様のために作るお料理を、筆者もぜひChat Noirでいただいてみたい。